「3分の1ルール」の見直しで加速する食品流通、安全性と食品ロス削減を両立へ

公開日:2023年3月23日 最終更新日:2024年8月27日

食品ロスの削減やSDGsの観点から、長らく食品流通で定着していた3分の1ルールを見直す動きが加速しています。ここでは3分の1ルールの基礎知識や見直しの事例などについて紹介します。

消費者重視で考案された3分の1ルール 

3分の1ルールとは 

3分の1ルール」とは、食品流通において「メーカー(または卸)」「小売り」「消費者」の3者が、製造から賞味期限までの期間を3分の1ずつ分け合うルールのことを指します。鮮度を求める消費者のニーズを受けて、1990 年代に大手小売りが導入したと言われており、それ以降、他の中小規模の小売りなどにも広がっていきました。 

3分の1ルールの仕組み 

3分の1ルールでは、賞味期限を三等分して、最初の3分の1を卸が小売りに納品できる期間、次の3分の1を小売りが消費者に販売できる期間、残りの3分の1を消費者が消費する期間と定めています。賞味期限が3カ月の場合は、それぞれ1カ月ずつが割り振られますが、最初の1カ月以内に卸が小売りに納品できなかった商品は卸からメーカーへ返品され、次の1カ月の販売期限内に小売りが消費者に販売できなかった商品は小売りから卸に商品が返品される仕組みとなります。 

海外の納品期限ルール 

欧米にも同様の納品ルールがありますが、最初の納品期間では米国は「2分の1」、欧州は「3分の2」が一般的で、欧州の中でも英国に至っては「4分の3」となっており、日本だけが特別に短く設定されています。 

安全な食品の提供か?食品ロスの削減か? 

3分の1ルールのメリット 

3分の1ルールの最大のメリットは、より新鮮で安全な食品を消費者に届けられる点です。消費者が小売店で購入した食品には、常に十分な賞味期限が残っている状態となります。また、一般的には賞味期限が近くなると値引き販売を行いますが、十分な賞味期限が残ることで、値引き販売を少なくして、値引きによるブランド価値の毀損を避けられるため、メーカーや小売店にとっても一定のメリットがあります。 

3分の1ルールのデメリット 

3分の1ルールのデメリットは、まだ食べられるのに廃棄されてします食品ロスを引き起こす可能性が高い点です。人気商品、売れ筋商品では期限内に販売できるため問題になりませんが、そうでない商品は、さらに「品切れは悪」とする慣習も拍車をかけ、納品できない商品や販売できない商品が山のように返品されても、品切れさせないために製造し続ける必要があります。この結果、メーカーや卸には、まだ食べられるのに販売できない商品が山積みになるケースも少なくありません。 

また、メーカーとしては一定の返品数を考慮したコスト計算をせざるを得なくなり、結果的に商品価格も高くなる傾向にあります。 

3分の1ルールの問題点 

こうした返品された商品、販売されない商品は、法律上、償却できないため、メーカーが社販等で自社従業員に配布したり、子ども食堂などのフードバンクに寄付するケース、さらに、すべてをさばききれない場合は食品リサイクルセンターに持ち込まれることもあります。受け入れ先があるとは言え、先述のデメリットを鑑みると、納品期間、販売期間を延ばすことで、食品ロスの削減と販売機会の延長のみならず、返品に関わる業務の手間を少なくし、消費者も割安に商品を購入できるようになるなど、メリットは多くなります。 

全国で3分の1ルール見直しの動き 

農水省は見直し240事業者を公表 

こうした状況を踏まえ、農水省では3分の1ルールの見直しを食品業界の経営層に要請しています。全国の食品事業者が3分の1ルールの見直しに取り組めるように、昨年10月には賞味期限表示の年月表示、賞味期限の延長、フードバンク・子ども食堂等への食品の提供と合わせて、3分の1ルールを中心とする納品期限の緩和についても呼びかけを行いました。 

3分の1ルールの見直しについては、すでに一部小売業者では取り組みが進んでおり、昨年12月時点で食品スーパーなど240事業者が取り組んでおり、農水省のホームページでも公開されています。 

※参考「納品期限緩和実施事業者一覧」 
https://www.maff.go.jp/j/press/shokuhin/recycle/221102_17.html 

メーカーは年月表示を加速 

業界団体などは「賞味期限の2分の1まで納品期限を緩和」「賞味期限表示の見直し」を目指していましたが、先に進んでいるのが「賞味期限表示の見直し」です。すでにほとんどの食品メーカーが年月日表示から年月表示へ変更。これにより賞味期間は最長で約1カ月短くなりますが、商品到着の遅れにより賞味期限が1日前後しただけで返品や廃棄を行う必要がなくなり、年月日の賞味期限を考慮して東日本と西日本をまたいで商品を行き来させる必要もなくなりました。これにより実際には食品ロスの削減につながっています。また、賞味期限の順に商品を並べ直す手間が省けるなど小売店としてもメリットがあるようです。 

「3分の1」そのものを緩和する動きも 

⽣活協同組合コープあいち、⾷生活協同組合ユーコープ、⽣活協同組合おおさかパルコープなどでは、既に2分の1ルールでの運用を行っています。また、ビール業界では納品期限を「賞味期限の 9 分の 4」に緩和したところ、大きな問題は発生せず、返品数も減少したため、現在も緩和後のルールで運用しています。 

丸市岡田商店(北海道)のように、3分の1ルールはそのままでも、分の1以下の残存賞味期間で在庫管理を実施することで食品ロス削減に取り組む動きもあり、各々で工夫をしながら3分の1ルールの緩和策に取り組んでいます。 

保存技術やDX活用を絡めた取り組みに期待 

全国的に3分の1ルールを見直す動きや、3分の1ルールに代わる食品ロス削減の取り組みが加速していますが、商品の種類は多岐にわたり商品によっても賞味期限の長さは異なることから、安全性の観点からも一概に決定できない部分もあります。その中で、見直しても十分に食品の安全性が担保でき、かつ食品を提供するメーカーや小売店が大きな不利益を被らない取り組みとなることも寛容です。新たな物流の仕組みや保存技術の向上、DX活用と連動し、さらにフードバンクとの連携も踏まえた見直しが必要となりそうです。 

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