人々の日常生活と密接にかかわる「食品」は新聞やテレビなどメディアにとっても重要なテーマの一つですが、ひとえに「食品」と言っても幅広く、ネタの数も多いことから、単なる新商品や新サービスではなかなか取り上げてもらえないのが現状です。しかし、そのような中でも、大きく取り上げられる“メディア好み”の広報ネタがあるのも事実。今回は2022年度の上半期に独自にクリッピングした食品関連の新聞記事の中から、今後のヒントになるような食品関連の記事を紹介します。
世界の動きやSDGsの取り組みを柱に紙面構成
食品業界は、原料や資材高騰などに伴う値上げやウクライナ情勢などの影響を多分に受けた上半期でした。特に年明け以降、値上げに関するニュースは継続して配信され、これにウクライナ情勢が絡んできたことで、国内の多くの食品事業者では緊急対応を迫られました。
これに関連して「輸出」や「SDGs」といったキーワードや、「冷凍食品」や「食品自販機」、さらには今後の食糧危機を見据えた代替食品なども大きな話題となりました。一方、地方では「商品開発」や「協業」ネタが数多くメディアに掲載されたほか、「お酒」「お茶」などの伝統食品、「新工場」「コンテスト」「フードバンク」なども定期的に取り上げられました。また技術革新で食品ロス削減を実現したり、業務を劇的に効率化する取り組みも取り上げられました。
「値上げ」「商品開発」「お酒」など多数登場
では具体的にどのようなネタがニュースになったのでしょうか。特に登場頻度の高かったテーマごとに掘り下げて解説します。
値上げ
大手食品メーカーや主要品目を中心に値上げ幅や値上げ率を報じるニュースが目立った上半期でした。値上げの話題がひと段落すると、サイズや資材、物流コストなどを
見直したり高価格帯商品を投入するなど企業努力を追う記事や、実際にこの状況でもヒットしている商品にスポットを当てる記事が登場。他にはない工夫で値上げに対抗する取り組みはメディアも積極的に取り上げていました。
包装資材
今年4月から「プラスチック資源循環促進法」が施行されたことに伴い、店舗の取り組みや紙スプーンといった新素材など、プラスチック代替品の話題がしばらく続きました。これ以降は、食品向け包装資材の技術革新ネタも上半期ではいくつか見られ、CO2を削減するアルミ箔代替フィルムや、賞味期限の延長を実現する紙パックやパウチ資材など、SDGsに絡んだ話題が取り上げられました。
お酒
地方紙である西日本新聞を中心にお酒の話題も豊富。これまでにない原料を使った新商品や品評会の好成績などが取り上げられました。酒造会社は地域に密着していることから、酒造会社の取り組みが地域振興・地域発展の観点からメディアにとっては取り上げる価値のあるニュースと言えます。
工場・製造
新工場の建設・竣工ネタは、当該地域の雇用創出にもつながるため、地方紙や地域面ではしばしば取り上げられます。工場建設は経営に関わるビッグプロジェクトとなるため、簡単に作れるネタではありませんが、「雇用創出」「人材不足解消」という観点で考えると、製造ラインの増設や、IT化・AI導入による業務効率化なども取り上げられる可能性が高いと言えます。
商品開発
新商品ネタはメディアとしては積極的に取り上げません。理由は企業の単なるPRに直結する報道価値の低いネタと判断されるため。報道してもらうためには、これまでにない特徴や社会問題を解決するようなストーリーが必要。こうした特徴的な切り口があれば「発売」時ではなく「開発」時にメディアへ情報提供することもお勧めです。「発売」より「開発」の方が、PR色が薄くなり、ストーリーが明確であるほどメディアにとっては安心して報道できるネタになります。
その他
メディアが知りたい(報道したい)と考えるネタの一つに「普段(一般人)は知ることのできない情報」があります。例えば、食品工場の製造工程や、売れている商品の秘密、意外なところで売れている商品、そこで働いている人の人となりなど。これまで当たり前だと思いこみ、特別感を感じていなかった自社の設備や取り組みが、実はメディアにとっては貴重な情報であることもしばしば。今一度、自社内で公表・公開できる情報や設備等を洗い出してみると良いでしょう。
上半期に注目した食品関連ニュースはこれ
食品事業者の広報担当者の参考になるような上半期のニュースをいくつか紹介します。※リンク先のニュースは有料会員向けの場合もあります。
業界のトレンドネタ
培養肉や値上げなど業界の話題については、ひと段落すると複数企業の取り組みや今後の展望などをまとめる特集記事が組まれるケースがあります。こうした話題をテーマにしたプレスリリース等を配信する場合は自社のみならず、業界の流れや場合によっては競合他社の情報を提供すると取材を申し込まれる可能性が上がります。
「培養肉、本物の味に肉薄 食料危機「うまく」解決。テックビジュアル解体新書」(日本経済新聞10/3付)
https://www.nikkei.com/nkd/theme/637/news/?DisplayType=1&ng=DGXZQOUC31AAN031082022000000
「価格設定「攻めと守り」…需要発掘 サイズ見直し[値段の真相]」(読売新聞10/12付)
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20221012-OYT1T50036/
協業による商品開発
「商品開発」は取り上げられやすいテーマの一つですが、その開発に複数社で協業したり、高校や大学など「学」が絡むとニュースとしての価値が一気に高まります。通常であれば裏方に回る原料の仕入れ業者でも、特殊な原料を使用した場合などは、社名を公表して「共同開発」をうたうのもメディアに興味を持ってもらうための手法の一つです。
「八女のほうじ茶+日本酒の新リキュール開発 お茶の味は「後から」」(西日本新聞9/10付)
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/985648/
「筑水高生が「ナシ酢」開発 規格外や傷ありを有効活用」(西日本新聞7/23付)
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/961002/
SDGsや環境配慮
包装資材などを環境に配慮したものに変更したり、それによって環境に優しい効果が見込めるような話題も、報道する価値の高いニュースと言えます。特に食品業界では食品ロスが大きな問題となっているため、食品ロスを削減する新しい取り組みは積極的に情報発信することをお勧めします。
「フードロス削減へ紙パック豆腐の賞味期間延長 さとの雪食品」(食品新聞9/9付)
https://shokuhin.net/61545/2022/09/09/kakou/日配/大豆製品/
メディアや読者を意識、勇気や元気を与える広報ネタを
引き続き、値上げ、SDGs、代替食品は業界の大きなテーマとして取り上げられるでしょう。地方に目を向けると、お酒やお茶など伝統的な食品や地域に根差した地域密着の取り組みなども取り上げられやすいネタです。
その中でも重要となるのは、厳しい市場環境だからこそ、前向きに取り組む姿勢や何かにチャレンジする意気込みを感じられるかどうか。地域の発展に寄与したり、読者や視聴者に勇気や元気を与えるようなネタをメディアは望んでいます。自社PRの視点ではなく、メディアや読者を意識しながらネタを探していくことが、中小の食品会社の広報活動には求められています。