熊本産アサリの産地偽装問題で注目される、食品表示法の「長いところルール」とは?

公開日:2022年4月4日 最終更新日:2022年5月17日

熊本県産として販売されていたアサリの産地偽装問題を受けて、食品表示法で運用されている「長いところルール」を見直す動きが広がっています。政府や熊本県はルールの見直しや新たな仕組みの構築を表明したほか、これに関連して他の農作物でも国産表示のルールを見直す動きも。アサリの産地偽装問題で注目されている「長いところルール」とは、どのようなルールなのでしょうか。表示ルールの新たな動きとあわせて紹介します。

畜産物や水産物で適用される、食品表示法の「長いところルール」とは

「長いところルール」とは、畜産物や水産物などで生育地が複数の場合に、飼育や養殖の期間が最も長い地域や国を「原産地」として表示するルールのこと。例えば中国で採取したアサリを生きたまま日本に輸入し、日本の浜で「蓄養」と呼ばれる方法で育てた後に出荷する場合、生育期間全体のうち、中国で生育した期間の方が長ければ原産地は「中国」、逆に日本での生育期間の方が長ければ原産地は「日本(又は都道府県等)」と表示できます。

一般的に水産物は、特定の領海内や排他的経済水域内で当該国の漁船が漁獲した場合は、その国が「原産地」となりますが、公海上で漁獲した場合は漁船の船籍国が「原産地」となります。アサリは干潟や浜辺で生育するため「長いところルール」が適用されていますが、アサリ以外にこのルールが適用されている代表的なものとしては、牛肉、豚肉、鶏肉などがあります。海外で生まれた子牛を輸入して日本で育てた場合、育った期間が長い国を原産地と表示でき、日本での期間が長ければ「国産牛」と表示することができるのです。

「長いところルール」を悪用したアサリの産地偽装

対象品目の中でも、牛や豚などは見た目で生育状況が想定できるのに対して、アサリの場合、見た目ではほぼ分からないことが今回の産地偽装につながった原因の一つと言われています。輸入されたアサリを県内の漁場で短期間、蓄養を行うことで生育期間と産地を偽り、一部の業者が熊本県産として販売していました。さらに悪質な業者は、蓄養すら行わずに、輸入品をそのまあ販売会社に納品していたとの報告もあります。こうした一連の産地偽装や違法表示、あるいは「長いところルール」の運用の問題が指摘されたことから熊本県や消費者庁では、ルールの見直しに向けて動きました。

QRコート採用など、熊本県、政府が産地表示を厳格化

熊本県では問題発覚後、2か月間の出荷停止の措置を講じて、その間、新たな産地表示ルールを検討。3月10日、県産天然アサリの流通経路をQRコードで可視化する独自のトレーサビリティー制度を構築することを公表しました。他の産地のアサリが途中で混入しないよう封印した状態で流通させ、消費者が産地証明書を見て安心して購入できる仕組みとするようです。また、政府はアサリで採用されていた「蓄養」を「長いところルール」から除外し、蓄養しただけではアサリは国産と表示できないようにする方向を固めました。今後、輸入したアサリを1年半以上、国内で養殖した場合は「国産」と表示できるようにし、業者側に輸入時期を示す書類の保管を義務づける予定です。

菌床栽培の生しいたけも国産表示が厳しく

こうしたアサリの産地偽装問題は他の農産物にも波及しています。それが生しいたけ。現在の国の食品表示のルールでは、生しいたけなどきのこを含む農産物は、収穫された場所を原産地として表示することができます。しかし生しいたけは「菌床」と呼ばれる木の粉を植え付けたものを国産として販売するケースが増え、違反ではないものの誤解を与えると指摘されていました。逆に生しいたけに「長いところルール」を適用した方が良いのでは、とする意見も少なくありませんでした。そこで消費者庁は、生しいたけに関して、収穫した場所ではなく菌を植えつけた場所を生しいたけの原産地として表示することを義務づける方向を固め、準備が整い次第、消費者や生産者への周知を図る方針です。

原産地の正しい表示は、消費者に誤解を与えないことや安心・安全性を担保するうえでとても重要です。また、国産農産物等の信頼性にも大きな影響を及ぼします。今回の産地偽装問題を受けて、適用する農産物・水産物を含めた原産地表示の見直し、地域ごとに産地偽装を防ぐ新たなルールが、さらに求められそうです。

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