【連載第34回(最終回)】小売りからメーカーに期待する事~これまでのまとめとメーカーさんへのお願い~

公開日:2024年1月30日

コンビニエンスストアの王者セブン-イレブンで120店舗もの経営指導を実施し、担当地区の店舗合計年商を大幅に伸長させた経験を持つ信田洋二氏。本連載では、小売業のスペシャリストである信田氏に、消費動向やメーカーの目指すべき方向性などについて分かりやすく解説していただきます。

さて、約3年に渡って、この項につき連載させて頂いておりましたが、今号をもって私の連載は終了することとなりました。今回は、最終回として『これまでのまとめとメーカーさんへのお願い』をお送りします。


メーカーさんからすると、『何故、小売業はあれだけワガママなんだろう』とか、『何故もっとちゃんとやらないんだろう?』とか、小売に対する思いはさまざまであり、『なかなかに難しい相手』との印象を多く持たれているのではないかと思います。

一つには、最終消費者であるお客様の前面に立っていますと、『イレギュラーが頻繁に発生する』ということが『レギュラー』な状態となっており、いわば『標準系がない(レギュラーな状況がない)』のが小売業といえるのです。

メーカーさんの商品においては、恐らくはち密にすべての商品設計を行い、商品の安全を担保し、安心してお客様に消費して頂くために、商品設計の時点から商品の生産工程全てにおいて、寸分の狂いもなく計画通りに製造をし続ける体制ということが『レギュラー』な状況であり、頻繁に『イレギュラー』が発生することなど、想定も想像もつかないのではないかと思います。

ひとたび『イレギュラー』が発生してしまうと生産ラインなどは大混乱となり、その後、改めての再発防止策の立案や設計の変更、工程の見直しなど、あらゆる角度から安全・安心な商品製造体制を構築されようとなされると思います。が、しかし小売業では、残念なことに、『何がレギュラーの状況か』全く雲を掴むような模索を日々実施しています。

例えば、メーカーさんの商品出荷の段階で、例えば缶コーヒーなどの容器(スチール缶)にへこみが見つかったとすると、その商品はすぐに出荷停止となり、ライン上で『缶がへこむ』というような事態が頻繁に発生するようになれば、全ての工程の見直しなどが瞬時に行われると思います。小売業で「へこんだ缶」が発生したとすると、対応内容は「ケースバイケース」で決められていき、明確な対処方法の基準はありません。

例の場合では、缶のへこみの状況によって、その後の対処が分かれます。軽微な場合で、商品落下によるへこみでないと判断されると、へこんだ部分を修正して、売場に出す場合や、へこんだ缶の商品だけを集めて、従業員などに安価で販売する方法、輸送途中でのへこみであるとの確証が取れれば、卸さんなどへ返品を行うということもあります。

つまり、メーカーさんからすると『缶がへこむ』というイレギュラーの発生については、対処方法は恐らくは一つ(出荷停止と再発防止)でしょうが、小売業では、一例として挙げた遠り、状況によって対処はまちまちになります。つまり、日々の営業の中で発生することのほぼ全てが『レギュラーでない』ことの積み重ねが小売業での仕事の仕方ということになります。

それだけに事細かく着実に一つずつを整理しながら、レギュラー化を目指すということが非常に苦手な業態であると言えます。その様な小売業ですので、小売業の担当者などとのお話しの際には『イレギュラーに日々囲まれて仕事をしている人々』との認識に立って、小売業の担当者などとお話しして頂ければ幸いです。

さて、約3年間、都合35回に渡り、連載をして参りましたが、今回でこのコラムでは筆を置きます。これまでご高覧賜りました皆様方に厚く御礼申し上げますと共に、「ショクビズ!」発行元の株式会社丸信のご担当の方々にも厚く御礼申し上げます。

どこかでまた、皆様方のお目に触れ、直接お話しさせて頂きます機会が賜れますよう、今後も精進を重ねてまいります。

文末とはなりましたが、改めましてこれまでのご愛読に厚く御礼申し上げますと共に、皆様方の益々のご清祥、メーカーさんの企業の皆様方の益々のご隆昌・ご繁栄を心よりお祈り申し上げます。ありがとうございました。

【連載第33回】価格暴騰で消費者がどの様な対応を取るのか?(13)

(このコラム終了


<プロフィール>

信田 洋二

1995年株式会社セブン-イレブン・ジャパン入社。店舗経営指導員(OFC)並びにディストリクトマネージャー(DM)として、千葉県成田市を中心とした成田地区、千葉市内などの店舗合計120店舗に対する経営指導を実施。成田地区のDM在任時、担当地区の店舗合計年商を約140億円から約155億円に伸長。千葉県下(9地区)にて最も売上の低い地区を、第4位の売上となるまでに伸長させるなどの実績を上げた。その後、情報システム部を経て物流部に在籍。2010年株式会社Believe-UPを創業、コンサルタントとして独立。主に小売業を対象に、店長、マネジャー、SV育成、データを活用しての売場づくり指導などで幅広く活躍している。著書に『セブン-イレブンの物流研究』(商業界、2013年)『セブンイレブンの発注力』(商業界、2015年)がある。

 

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