食品産業の対応が社会のリスクを左右、事業者が今すぐに取り組むべきSDGsとは

公開日:2022年1月31日 最終更新日:2022年7月5日

テレビや新聞、ラジオ、雑誌、あるいはネットニュースなどで、最近、急激に露出が増えてきたSDGs(エスディージーズ)。SDGsのコーナーを設けている番組や、SDGs先進企業を特集する新聞も見かけるようになりました。すでに多くの大学では、SDGsを学ぶ機会が設けられ、これが高校や中学校などへも広がっており、若年層への浸透も進んでいます。これまでSDGsは大企業が有名企業のように余力がある企業が取り組むべきもの、というイメージがありましたが、こうした流れを受けて、食品業界でも中小企業の取り組みが加速しています。SDGsの基礎知識や現状から、食品業界における取組の事例、さらにはSDGsに取り組むメリットなどを紹介します。

食品ロス削減を中心に進む食品業界のSDGs

SDGsとは2030年までの持続可能な開発目標

SDGsは「Sustainable Development Goals」(持続可能な開発目標)の意味で、2015 年国連サミットで「持続可能な開発のための2030アジェンダ」で採択された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。分かりやすく言えば、環境破壊、貧困、紛争、人種差別など問題を地球規模で解決するための指標と言えます。また、企業の取り組みに落とし込むと、環境保全・環境配慮、働き方改革、多種多様な人材の雇用、技術革新、健康経営、三方よし経営などがSDGsの取り組みとして位置づけられるケースが多いようです。

興味のきっかけは「食品ロス」、SDGs認知度は急伸

2022年4月に電通が実施した「SDGsに関する生活者調査」によると、全国10~70代の男女計1400人のうち、SDGsの認知率は86%に達したことがわかりました。前回調査(2021年1月)から30ポイント以上伸長しており、この1年でいかにSDGsが浸透したかがうかがえます。また、SDGsに興味を持ったきっかけとして「食品ロス」(43.2%)、「環境問題」(52.5%)が圧倒的に多いことから、日常的に目にする食品や資材などを通じて認知が進んでいることがわかります。

■電通、第5回「SDGsに関する生活者調査」を実施
https://www.dentsu.co.jp/news/release/2022/0427-010518.html

年間500万トン以上、日本の食品ロスの現状

2030年までに事業系食品ロスは半減が目標

SDGsのターゲットの1つに「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食品廃棄物を半減させる」ことが盛り込まれています。日本国内においても、2019年に食品ロス削減推進法が施行され、2020年3月には基本方針(「食品ロスの削減に関する基本的な方針」)が閣議決定されました。「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律」(食品リサイクル法)では、食品事業者から発生する事業系食品ロスを、2000年度比で2030年度までに半減させる目標を設定しています。一般家庭から発生する家庭系食品ロスについても同様の目標を設定しています。

つまり食品ロス削減の取り組みそのものがSDGsであり、食品業界の大きな目標の一つとなっています。大手食品メーカーを中心に取り組みを進めていることが、前述の電通の調査結果に現れた格好です。

減少傾向も世界的には膨大な日本の食品ロス

では実際に、国内の食品ロス量はどれくらいあるのでしょうか。農林水産省と環境省が公表している2020年度の食品ロス量は522万トンでした。これは前年度比で48万トン削減。このうち食品事業者から発生する事業系食品ロス量は275万トン(前年度比34万トン減)、家庭から発生する家庭系食品ロス量は247万トン(同14万トン減)となり、いずれも、調査を開始した2012年度以降で最少の数字となりました。しかしながら、世界中で飢餓に苦しむ人々が必要としている食料支援量は年間約420万トンと言われており、実に世界の必要量の1.2倍の量が、日本では廃棄されているのが現状。減少傾向にあるとは言え、膨大な量の食品ロスは引き続き対策が求められています。

先進的なSDGsや食品ロス削減の取り組みも

SDGsゴール別、主な取り組み事例

食料品の加工や流通業、外食産業などを含む食品産業は、さまざまな栄養素を含む食品を安定供給することで、SDGsの「豊かで健康的な社会の実現」に貢献できる産業。農畜産物や水産物など、多くの自然資源と人的資源に支えられている産業でもあるため、SDGsが達成されずに環境や社会が不安定になることが、ビジネス上のリスクにつながると考えられています。

現在、イオンやローソンなど、大手小売・流通企業を中心に、サプライチェーン全体で環境対応などSDGs達成を目標とする動きも活発化してきています。この流れは企業だけの問題ではなく、国全体で積極的に推進しており、農林水産省も特設ページで食品産業へのSDGs啓蒙を開始しています。 では、実際にSDGsと食品産業がどのように関連するのか、17の目標ごとに簡単にご紹介します。

■農水省特設ページはこちら
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/sdgs/

目標1
所得による「食の格差」をなくし、生産者の生活を安定させる
例:生産者に公正な対価を支払う取引

目標2
食品の安定供給と知識の提供により中心的役割を果たす
例:計画的な生産や製造により適正価格で安定供給

目標3
食品や関連サービスの提供を通じて人々の健康に貢献
例:健康的な食品や健康に関する情報の提供

目標4
食育環境教育など関係者の資質向上は安定した企業経営に
例:地域や学校に対して食育の場を提供

目標5
女性の就業率が高い産業のため女性が活躍しやすい仕組みの構築
例:制度や給与の平等化、働きやすい職場環境の整備

目標6
サプライチェーン全体で多量の水を消費するため安全な水の確保は不可欠
例:節水活動、浄化水の活用

目標7
食品産業を含む全産業で省エネ推進再生可能エネルギーへの転換
例:店内・工場内の照明LED化、再生可能エネルギーの活用

目標8
労働力不足の中で雇用を引き寄せるために食品産業でも働き方改革が重要
例:時間外労働の削減、パワハラ・セクハラの撲滅

目標9
超高齢化社会の到来により機械化やIoTを活用した省人化が重要
例:AIやITの導入による業務効率化で労働時間の削減や人材不足の解消を実現

目標10
多様な人材が就業しているため労働環境や人権問題に配慮
例:同一業務同一賃金など平等な職場環境の整備

目標11
街の安全と賑わいは顧客獲得や労働力確保などの点で事業継続性に不可欠
例:お祭りや行事など地域活動に参加することで治安維持などに貢献

目標12
主体的な取り組みで中長期的なコスト削減や企業評価の向上へ
例:食品ロス削減に関するさまざまな取り組み

目標13
事業活動が温室効果ガスの発生源の一つとなっているため対策推進が必要
例:節電、エコ運転、ハイブリッド車の活用

目標14
水産資源の持続的な確保は喫緊の課題のため海洋プラスチック問題の対策も
例:エコトレーなど環境配慮資材の活用

目標15
豊かな森林は農林漁業者の生活を支え食品産業の持続性にとって極めて重要
例:直売コーナーの設置など地域の生産者・漁業者の販売機会の創出

目標16
コンプライアンスの徹底と社会倫理に沿った企業活動で消費者の信頼を高める
例:コンプライアンスや企業理念などを従業員に徹底

目標17
食品産業の多くが地域性の高い中小企業であるため地域社会で支え合うことが重要
例:三方よし経営、取引業者等々の良好な取り引き

大手食品メーカーのSDGs方針事例

現在、日本マクドナルドや味の素、明治など大手食品事業者を中心にSDGsへの取り組みが加速しています。代表的な食品事業者の取り組み事例を紹介します。※農水省「SDGs×食品産業」より引用

味の素グループ

味の素グループは「おいしく食べて健康づくり」というわかりやすい創業の志のもと、事業を通じた社会課題の解決に取り組んでいます。事業で産み出す価値を、「経済価値」とSDGsで表わされる「社会価値」の双方で表わすことを重視。事業を通じた社会課題の解決に取り組み、社会・地域と共有する価値を創造することで経済価値を向上し、成長につなげることを目指す、「ASV(Ajinomoto Group Shared Value)」の取り組みを、味の素グループ”Our Philosophy”の中核に位置づけています。

味の素グループの取り組み・詳細はこちら
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/sdgs/ajinomoto.html

ニチレイフーズ

ニチレイフーズは、日本の冷凍食品のフロンティアカンパニーとして、研究開発・調達・生産・販売・物流の能力をフルに活用し、お客様のお役に立つ価値ある商品とサービスを提供しつづけています。また、食と健康を支える企業として事業活動を通じて新たな顧客価値を創造し、社会課題の解決に貢献することを目指しています。CSR活動の考えに基づき「ニチレイの約束」を掲げて取り組んでいます。

ニチレイフーズの取り組み・詳細はこちら
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/sdgs/nichirei.html

ニッスイ

水の水道におけるは、水産物の生産配給における理想である。を創業理念とする日本水産は、水産物を幅広く活用した製品を扱う事業が主体となるため、水産物を調達し顧客に届け続けることが、社会への貢献につながるとし、水産資源の持続性を目標に養殖による環境負荷低減などに取り組んでいます。
全事業所の従業員による河川敷や公園、町中などの清掃活動、食品ロス削減のためにオリジナルのマイボックスを作成するなど、社員一人ひとりが楽しく参加できる活動を企画・実行しています。

ニッスイの取り組み・詳細はこちら
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/sdgs/nissui.html#com_top

不二製油

植物性食品素材事業を通した社会課題解決を目指す不二製油グループは、「Plant-Based Food Solutions」(PBFS)をキーワードに「人と地球の健康」と「おいしさと健康」の2点からSDGsの達成にアプローチしています。
2016年3月に「責任あるパーム油調達方針」を策定し、パーム油サプライチェーン上の「森林破壊ゼロ」「泥炭地開発ゼロ」「搾取ゼロ」の実現に向けて、2018年からグリーバンス(苦情処理)メカニズムを運用。また、子どもたちに食品を通じて、社会の課題を学んでもらうための食育活動も行っています。

不二製油の取り組み・詳細はこちら
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/sdgs/fujioil.html#com_top

大井川製茶

大井川製茶は3つの企業理念「創新ダイナミズム、野心的イノベーション、トップスピード」「日本の茶文化の振興が私たちの究極の命題」「大井川茶園の目標の完遂と成功は私たちの誇り」をベースにSDGsへの貢献を推進しています。
人々の健康維持・増進、日本の伝統文化の振興を目的に食育活動セミナーや、茶文化の啓蒙活動を実施しています。お客様の声を蓄積し、企画から生産につなげる仕組み(ユニットマーチャンダイジング)や女性の活躍を推進する商品開発、ステークホルダー間の情報共有、間伐材など国産木質バイオマス資源の積極活用など、さまざまなビジネスに挑戦しています。

大井川製茶の取り組み・詳細はこちら
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/sdgs/ooigawachaen.html#com_top

コープデリ生協

持続可能な開発のための2030アジェンダおよび日本政府のSDGs実施指針で、ステークホルダーの一つとして位置付けられた協同組合。「人と人とがつながり、協同の輪を広げ、くらしを豊かにすることを目的とした助け合いの組織」として、SDGsが生まれる以前からさまざまなステークホルダーとともに持続可能な社会の実現を目指しています。
「お米育ち豚プロジェクト」「佐渡トキ応援お米プロジェクト」「美ら島(ちゅらしま)応援もずくプロジェクト」「ハッピーミルクプロジェクト」の4つのプロジェクトを展開しており、生産者支援や自然環境の保全、開発途上国の子どもたちの支援など、社会課題の解決を目指しています。また、規格外農産物の取り扱いによる食品ロス削減や商品納品期限の延長など、幅広い取り組みを行っています。

コープデリ生協の取り組み・詳細はこちら
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/sdgs/coopdeli.html#com_top

代表的な食品SDGs「食品ロス削減」事例

こうした日本での食品ロスの現状を鑑みて、消費者庁では食品会社が取り組むべきSDGsの代表的な施策である食品ロス削減について、さまざまな取り組みをWebサイトで公開しています。これは2018年から2020年2月までに、消費者庁Webサイト「[食品ロス削減]食べもののムダをなくそうプロジェクト」等で紹介した民間団体の取り組み事例集をまとめたものです。

https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/information/food_loss/case/assets/case_200319_0002.pdf

《⼩売店での売り切りの取り組み》

「てまえどり」のPOPは徐々に普及し始めていますが、⽣活協同組合コープこうべでも、商品棚の手前に並べる販売期間が近い値引き商品の購入を促すキャンペーン「てまえどり」を実施。すぐに食べる食品は、販売期間が短いものから買っていただくように促すことで食品ロス削減を目指しています。

《需要に⾒合った販売の取り組み》

国内の供給量や輸入量が減少傾向にあるウナギについて、限りある資源を枯渇させないとの観点と、日本の食文化を次世代へ継承することを目的に、代替品の販売や、トレーサビリティの確保、売れ残り廃棄削減など、イオンや環境省が音頭をとって食品事業者とともに取り組んでいます。

《ITを活⽤した⾷品ロス削減の取り組み》

日本気象協会では、気象データを活用した商品需要予測サービスを提供しています。天気予報で培った最先端の解析技術で商品の需要予測を行い、食品メーカーでの生産量調整や小売店での仕入れ見込みをサポート、食品ロス削減につなげています。

《家庭での⾷品ロス削減につなげる取り組み》

クックパッドは、家庭から出る⾷料廃棄を楽しく解消するクリエイティブ クッキングバトル(CCB)を開催しています。“ありもの”から制限時間内に美味しい料理を作るフードバトルイベントで、味だけでなく見た目や創造性なども競うユニークなイベント。楽しく食品ロス削減を目指す取り組みです。

《フードバンク活動》

「もったいない」⾷品を活⽤し、社会を変える仕組みを構築しているのはセカンドハーベスト・ジャパン。食品事業者の社会的責任や持続可能な社会に向けた取り組みとして、一人ひとりができることを考えてもらうような社員向け勉強会を実施しています。

食品会社がSDGsに取り組むメリット

大手小売・流通会社とのビジネスチャンスに

食品業界でも大手メーカーが先行しているSDGsですが、遠くない未来に中小規模の食品会社でもSDGsや環境配慮への取り組みは必須となりそうです。その理由が大手小売・流通会社の動向です。

例えばイオンは、2021年7月にサプライチェーン(スコープ3に該当)全体で脱炭素社会の実現を目指すことを掲げました。スコープ3とは、自社でコントロールできる範囲のみならず、仕入れ段階から販売後までを含むサンプライチェーン全体の範囲。環境負荷の少ない原料・資源等を選択するよう努めまることも盛り込んでおり、イオンに商品を卸す取引メーカーにも環境配慮を強く求める宣言内容となっています。

また、セブン&アイも、スコープ3を含めたサプライチェーン全体でCO2削減を目指しており、特にオリジナル商品(セブンプレミアムを含む)では使用する容器の50%を2030年までに環境配慮型素材(バイオマス・生分解性・リサイクル素材・紙等)とする方針を打ち出し、2050年には100%にするとしています。こうした大手の方針は、いずれ中小や地方の小売業にも広がっていくことが予測されるため、同様の中小や地方の食品メーカーも、今後はSDGsや環境配慮に対応した商品が求められると同時に、対応することでビジネスチャンスをつかむことも期待できます。

真に良い会社になり、取引先や金融機関からの信頼も

こうした小売店との持続的な取引のほかにも、食品メーカーがSDGsに取り組むメリットはあります。現在、企業のコンプライアンスの重要度は従来にも増して高まっています。偽装や不正、反社会的組織とのつながりなど、コンプライアンスに反する企業は市場から退場させられるようなケースも増えていることから、取引先にも良い会社であることを条件にする企業も急増しています。また、金融機関の目も厳しくなっていることから、SDGsに取り組み真に良い会社となることで、良い会社同士のネットワークが生まれ、金融機関からも支えられ、まさに持続可能な事業運営が可能になります。

リスク回避に向け可能な範囲でSDGsを開始

SDGsは社会の様々な課題が網羅されており、近い将来、中小の食品事業者も対応が必須となる時代がやってくるのは明らかです。消費者のエシカル消費への意識を鑑みながら、SDGsの「豊かで健康的な社会の実現」に貢献し、「食品産業」全体の成長を目指すことは、ビジネス上のリスク回避にもつながります。まだSDGs貢献への対応に着手していない中小の食品事業者も、今のうちにできるところから進めていくことが求められています。

丸信では、環境製品の取り扱いや環境マークの印刷など、SDGsに対応するお手伝いをさせていただいております。SDGsについてご不明点などございましたら、お気軽にお問い合わせください。

また、当社では、中小企業のSDGsにフォーカスした無料Webセミナーを7月29日(金)予定しております。ご興味ございましたら、是非お申込みください。

■【Webセミナー】中小企業・小規模事業者必見!「SDGSで中小企業の未来を切り拓こう」(7/29開催、参加無料)


https://www.maru-sin.co.jp/seminar/web2207/

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