【連載第2回】ご存知ですか?賞味期限・消費期限の設定について

公開日:2021年5月17日 最終更新日:2022年3月9日

本コラム「シリーズ 食品分析の現場から」では、丸信の食品分析室・顧問で経営全般のプロフェッショナルである門田直明氏に、食品分析の知っておきたい情報や衛生管理に関する法改正で必要となる対応などについて、定期的に解説していただきます。今回は第2回、「賞味期限・消費期限の設定について」のコラムです。 

 


 

賞味期限・消費期限を設定する際に、法的基準や業界基準を満たすように設定する必要があることをご存知でしょうか?

食品の日付表示に関しては、平成74月から製造年月日等の表示に代えて、消費期限または賞味期限 (品質保持期限)の期限表示を行っています。

また、平成157月には、「食品衛生法」及び「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律」に基づく表示基準を改正することにより、「賞味期限」と「品質保持期限」の2つの用語が「賞味期限」に統一されるとともに、「賞味期限」及び「消費期限」のいずれについても、それらの定義の統一が行われました。

 

<賞味期限>

おいしく食べることができる期限(best-before)。この期限を過ぎても、すぐに「食べられない」ということではない(スナック菓子、カップめん、缶詰等)。

 

<消費期限>

期限を過ぎたら食べない方が良い期限 use-by date)。(弁当、サンドイッチ、生めん等)。

 

期限の設定については、厚生労働省(「期限表示の設定は、食品の特性等に応じて、「微生物試験」「理化学試験」及び「官能検査の結果」等に基づき、科学的・合理的に行うものであること」等)及び 農林水産省(「食品に表示される「賞味期限」等の期限は、その食品の品質保持に関する情報を把握する立場にあり、当該製品に責任を負う製造業者等が科学的、合理的根拠をもって適正に設定すべきものである」等)において示されているほか、一部の業界団体等において自主的にガイドライン等が作成されているところです。

しかし、食品全般に共通した期限表示の設定に関する科学的なガイドラインを示す必要性が指摘されてきました。

この流れを受け、平成172月に厚生労働省、農林水産省から「食品期限表示の設定のためのガイドライン」が制定されました。

 

期限表示設定の基本的な考え方

自社で消費期限・賞味期限を設定する際、どのような方法やルールにのっとって決定すればいいのでしょうか。以下に基本的な考え方をまとめました(①~③は消費者庁HPより抜粋)。

 

①食品の特性に配慮した客観的な項目(指標)の設定

(A)期限表示が必要な食品は、生鮮食品から加工食品までその対象が多岐にわたるため、個々の食品の特性に十分配慮した上で、食品の安全性や品質等を的確に評価するための客観的な項目(指標)に基づき、期限を設定する必要がある。

 

(B)客観的な項目(指標)とは、「理化学試験」「微生物試験」等において数値化することが可能な項目(指標)のことである。ただし、一般に主観的な項目(指標)と考えられる「官能検査」における「色」「風味」等であっても、その項目(指標)が適切にコントロールされた条件下で、適切な被験者により的確な手法によって実施され数値化された場合は、主観の積み重ねである「経験(値)」とは異なり、客観的な項目とすることが可能と判断される。

 

(C)これらの項目(指標)に基づいて設定する場合であっても、結果の信頼性と妥当性が確保される条件に基づいて実施されなければ、客観性は担保されない。

 

(D)各々の試験及び項目(指標)の特性を知り、それらを総合的に判断し、期限設定を行わなければならない。

 

(E)なお、食品の特性として、例えば1年を越えるなど長期間にわたり品質が保持される食品については、品質が保持されなくなるまで試験(検査)を強いることは現実的でないことから、設定する期限内での品質が保持されていることを確認することにより、その範囲内であれば合理的な根拠とすることが可能であると考えられる。

 

②食品の特性に応じた「安全係数」の設定

(A)食品の特性に応じ、設定された期限に対して1未満の係数(安全係数)をかけて、客観的な項目(指標)において得られた期限よりも短い期間を設定することが基本である。

なお、設定された期間については、時間単位で設定することも可能であると考えられることから、結果として安全係数をかける前と後の期限が同一日になることもある。

 

(B)例えば、品質が急速に劣化しやすい「消費期限」が表記される食品については、特性の一つとして品質が急速に劣化しやすいことを考慮し期限が設定されるべきである。

 

(C)また、個々の包装単位まで検査を実施すること等については、現実的に困難な状況が想定されることから、そういった観点からも「安全係数」を考慮した期限を設定することが現実的であると考えられる。

 

③特性が類似している食品に関する期限の設定

本来、個々の食品ごとに試験・検査を行い、科学的・合理的に期限を設定すべきであるが、商品アイテムが膨大であること、商品サイクルが早いといった食品を取り巻く現状を考慮すると、個々の食品ごとに試験・検査をすることは現実的でないと考えられる。

食品の特性等を十分に考慮した上で、その特性が類似している食品の試験・検査結果等を参考にすることにより、期限を設定することも可能であると考えられる。

 

④流通温度帯

流通時の保存温度帯は、「常温(15℃35℃位)」「冷蔵(10℃以下位)」「冷凍(-18℃以下)」と分けるのが一般的です。

商品の流通温度帯で保存試験を行い、「安全係数」を考慮して賞味期間・消費期限の設定を行います。

 

合理的・科学的な根拠となる3つの試験

期限表示設定の際に行われる代表的な試験・検査については、以下の3つが挙げられます。

 

1.微生物試験

食品の製造日からの品質劣化を微生物学的に評価するものです。その際、食品の種類、製造方法、また、温度、時間、包装などの保存条件に応じて、効果的な評価の期待できる微生物学的指標を選択する必要があります。一般的指標としては、「一般生菌数」「大腸菌群数」「大腸菌数」「低温細菌 残存の有無」「芽胞菌の残存の有無」等が挙げられます。

これらの指標は客観的な指標(数値)として表現されることが可能で、合理的・科学的な根拠として有用であると捉えられます。しかしながら、この場合には、食品の種類等により許容可能な数値は異なることを考慮する必要があります。

 

2.理化学試験

食品の製造日からの品質劣化を理化学的分析法により評価するものです。食品の特性に応じて各食品の性状を反映する指標を選択し、その指標を測定することにより、賞味期限の設定を判断します。一般的な指標としては、「水分」「水分活性(AW)」「pH」「糖度(BRIX)」「粘度」「濁度」「比重」「過酸化物価」「酸価」「酸度」「栄養成分」等が挙げられます。

これらの指標は客観的な指標(数値)として表現することが可能で、食品の特性に応じて、合理的・科学的な根拠として有用となると捉えられます。これらの指標を利用して、製造日の測定値と製造日以後の測定値とを比較検討することで、普遍的に品質劣化を判断することが可能です。

 

3.官能検査

食品の性質を人間の視覚・味覚・嗅覚などの感覚を通して、それぞれの手法にのっとった一定の条件下で評価するものです。測定機器を利用した試験と比べて、誤差が生じる可能性が高く、また、結果の再現性も体調、時間帯などの多くの要因により影響を受けます。しかし、指標に対して適当な機器測定法が開発されていない場合や、測定機器よりも人間の方が感度が高い場合等に、有効利用することができます。

得られたデータの信頼性と妥当性を高くするためには、適切にコントロールされた条件下で、適切な被験者による的確な手法により実施され、統計学的手法を用いた解析により結果を導くように留意しなければなりません。

 

表 具体的な賞味期限・消費期限の設定事例


 

<プロフィール>

株式会社丸信 食品分析室 顧問 門田 直明

1984年九州大学農学部食糧化学工学科食品分析学教室卒業。同年大塚製薬グループの大塚化学株式会社食品研究所入社。食品分析室の設立、飲料・食品の新製品開発、海外からの新製品の輸入業務・品質管理・シリーズ商品の開発輸入、海外からの原料の開発輸入、中国への食品事業進出、本社生産本部などに従事。2003年に食品技術サービスを中心とするコンサルタントとして独立、2007年コーライフ・クリエイツ株式会社設立。高知県食品産業クラスター協議会コーディネーター、2009年高知大学客員教授、土佐フードビジネスクリエーター人材創出事業講師。食品メーカー、地方自治体など新製品開発支援、経営全般(経営戦略、人財育成、工場運営、収益改善、生産管理、品質管理、資材調達、海外展開など)支援。18年間での累計支援企業約300社。

 

丸信では、正確でスピーディな「食品検査サービス」で微生物検査も承っております。
詳しくは、当社が運営する食に関する衛生問題のソリューションサイト「食品衛生.comの「食品検査サービス」をご覧ください。

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