食品業界では、年間数万件の商品のパッケージがリニューアルされています。パッケージデザインを考える際、皆さんはどのような目的・意図を持ってデザインを考えていますか?長年、食品パッケージのアートディレクションを行ってきた、アートディレクター 間島氏のコラムをご紹介します。成功するデザインリニューアルとは?クライアントの事例を交えてご紹介してもらいます。
デザインには必ず「答え」があります。
答えを見つけないまま、適当なデザインをご提案するわけにはいきません。
限られた時間で答えを出すには、普段からアイデアを蓄積し、沢山の資料をストックする必要があります。そのアイデアの蓄積には、刑事と同じように「現場」を見ることが大切です。
刑事のように売場を観察。
差別化できるデザインを考える。
博多駅でお土産のラーメン(箱入り)を売りたいので目立つ色にしてほしいとのご依頼がありました。目立つ色といえばやはり赤色。しかしながら売り場を見てみると、明太子のパッケージなど赤一色。そこで、あえて黒のデザインを提案しました。
配色を他の製品と差別化させることで、目立たせようというのが狙いです。
雪の中で、白い兎が見えないのと同じ。
たとえショッキングピンクのような目立つ色であっても、商品棚一面がその色では、消費者の目に止まらせることは難しいでしょう。
コンビニの魚惣菜のデザインでは、魚のイメージ写真を入れて横位置でデザインして欲しいとの依頼がありました。写真とのバランスを考えると商品名も横位置に入れるのが妥当。
しかしながら、とあるコンビニの売り場を見てみると、その店は商品を縦にして陳列していました。限られたスペースだと仕方ない事です。縦置き・横置き、どちらでも商品タイトルが読みやすいことを考え、商品名を斜めに入れました。
鹿児島のウイスキーのラベルとカートンのデザイン。依頼主の蒸留所のホームページを見ると、蒸留所の名前の入ったシンボルタワーが大きく出てきます。このシンボルタワーをデザインのメインに据えるのが普通かもしれません。
実際にこの蒸留所を訪ねてみると、このタワーは、以前蒸留所として使われていたもので、現在は酒造会社の歴史を表現した展示場となっていました。違う建物に行くと、2本の蒸留器が目に留まりました。
この蒸留機は、まさにこの蒸留所の心臓部。
これを見て蒸留機をメインにデザインすることを決めました。実際に蒸留所を訪問したからこそのアイデアでした。
現場を見ないと浮かばないデザイン、
事前のデザインシミュレーションの大切さ。
「デザインをするものは医者である」ということも言えます。
休日にスーパーに買い物に行くと、棚に並んでいる商品パッケージを片っ端から頭の中でリニューアルしてしまいます。
医者が街中で倒れている人を見たら、プライベートの時間だろうと関係なく処置するのと同じことだと思います。
焼酎の酒造会社から、リニューアルデザインのご依頼があった時のお話です。その商品は「長期貯蔵酒」でしたが、瓶の形は撫肩で少々古い感じがありました。ラベルの金色をもっと違う色味の金色が良いのではないかと直感で思いました。
実は以前、この商品が棚に並んでいたのを見て、頭の中でリニューアルデザインを考えていたことがありました。そのため、このデザインの話をいただいた時はすでにデザインの構想が出来上がっていたのです。
医者でいうと“健康”なところはそのまま、
“問題”のあるところだけを変える。
時折、デザインのリニューアルに失敗したという話を聞きますが、これはデザインを任せていただく上で、絶対にあってはならないこと。医者でいえば、健康な箇所をさわって、患者が体調を崩すというのと同じこと。
デザインをリニューアルする際は、いい所は変えずに、問題のある所だけを変えて、その商品の魅力をより一層消費者にお伝えできるよう、デザインに携わるものとして心得ておきたいことであります。
(株式会社丸信/アートディレクター 間島)