流通・食品卸・メーカーから包装資材まで加速する食品業界の脱炭素化。カーボンゼロのメリットや事例を紹介
日本政府は2010年に宣言した「2050年カーボンニュートラル」で、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを表明しました。 「排出を全体としてゼロ」とは、二酸化炭素(CO2)をはじめとする温室効果ガスの実際の「排出量」 から、植林や森林管理などによる「吸収量(又は排出権)」 を差し引いた合計を実質的にゼロにすることを意味しています。 この2050年カーボンニュートラルを実現するには、農林水産物の生産から食品加工~流通~販売~消費者~廃棄までの一連の流れを指すフードサプライチェーン全体における脱炭素の取り組みも重要とされており、食品業界でもさまざまな取り組みが加速しています。 食品業界と温室効果ガス(主にCO2)との関連や脱炭素に取り組むメリット、業界で先進的に脱炭素に取り組む企業の事例などを紹介します。
食品ロスのCO2排出は自動車と同水準
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の調査結果によると、地球温暖化の大きな原因となる温室効果ガスの8~10%は食品ロスが排出源になっていると言われています。これは自動車による排出量と同水準。 食品ロスにより廃棄処分となる食品を焼却する際には多くの二酸化炭素(CO2)が発生し、埋立処分をする場合でも発酵によるメタンガスが発生するからです。食品業界の脱炭素の取り組みがいかに重要視されているかが理解できる数字です。 また、環境省がとりまとめた「サステナブルな食に関する環境省の取組について」 (https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000760254.pdf)によると、食料の生産・加工・流通・調理・消費・廃棄など一連の活動を含むフードサプライチェーンにおいて排出される温室効果ガスは、世界で排出される人為的な温室効果ガスの21~37%を占めていると記載されるなど、食品業界でカーボンニュートラルを実現するにはフードサプライチェーン全体での取り組みが不可欠と言えます。
食品事業者が取り組める脱炭素
では、実際にカーボンニュートラルを目指すための脱炭素の取り組みにはどのようなものがあるのでしょうか。どの企業にも共通する一般的なものから、食品業界ならではの企業の取り組みまで紹介します。
食品ロス
食品業界におけるもっとも大きなテーマが食品ロスの削減です。 生産、販売、購入などの過程で余らせてしまうことで発生するため、余らせないための計画的な生産体制の構築や、余ったものでも長期保存できる冷凍技術の進歩や、フードドライブ向けに有効活用するなどの活動が広がっています。 ・需要に応じた計画的な生産・製造・販売 ・規格外品や未利用品などの有効活用 ・賞味期限・商品期限の延長 ・冷凍保存など保存技術の革新 ・フードドライブの活用 など
エネルギー
製造工程や輸送を中心に食品業界ではさまざまな場面で多くのエネルギーを消費しています。電力、重油、ガス、ガソリン、軽油など。 こうしたエネルギー全体の使用量を減らしつつ、より環境負荷の小さいクリーンなエネルギーへの切り替えが求められます。 ・再生可能エネルギーの活用 ・重油から環境負荷の低いガス等へ変更 ・照明等LED化など節電対策 ・ハイブリッド車、EV車の活用 ・安全運転やエコ運転 ・同業者等との共同配送
包装資材
食品はさまざまな包装資材でおおわれた状態で流通・販売されています。食品トレーやシール・ラベル、パッケージなど。また、併用品としてプラスチック製のストローやスプーンも使用しています。 こうした包装資材を見直すことでもCO2削減に貢献することができます。 ・環境負荷を低減した包装資材の活用 ・包装資材のリサイクル体制の確立 ・過剰包装の見直し ・再利用可能なプラスチックの活用 ・廃棄プラスチックの削減
J-クレジット
J-クレジット制度とは、温室効果ガスの排出削減量や吸収量をクレジットとして国が認証する制度です。同制度は経済産業省、環境省、農林水産省が運用しています。 カーボンニュートラル(カーボンゼロ)を目指す企業の場合、再生可能エネルギーの活用やエネルギー使用量削減などを行いながらも、どうしても削減できないCO2についてはJ-クレジットを購入して相殺(カーボンオフセット)するのが一般的です。 カーボンニュートラルを目指さなくても、森林保全や地域振興を目的に定期的に購入している企業もあります。 https://japancredit.go.jp/
食品事業者が脱炭素に取り組むメリット
市場競争における優位性
大手流通グループや食品卸などがすでにカーボンニュートラルや脱炭素化の方針や目標を掲げています(企業事例参照)。 一部のエリアでは商品ごとにCO2排出量を提示することを求めるなどの動きも出ています。目標の範囲を仕入・調達なども含むサプライチェーン全体(Scope3)と設定している企業も多いことから、将来的にはカーボンニュートラル・脱炭素に取り組んでいる企業のみが大手と取り引きできる状況が生まれるでしょう。 また、早期から脱炭素に取り組むことで、こうした大手企業との取り引き関係を強化できるのはもちろん、環境PRという側面から競合他社との差別化要因としての優位性もあります。 さらに、金融機関が脱炭素経営を進める企業への融資条件を優遇する取り組みも行われております。
エネルギー費用の削減
脱炭素を進めるにあたり、電力、重油、ガス、ガソリンなど消費するエネルギーの削減は必須。省エネ設備の導入や生産工程の見直しなどを進めることになりますが、これに伴い、光熱費や燃料費の低減が見込めます。 再生可能エネルギーの電力調達は、一般的には割高になると言われていますが、会社全体の省エネ意識の向上等もあり、使用量そのものを大きく削減できる可能性があり、その結果、電気代を低く抑えられたという事例も少なくありません。
知名度や認知度の向上
地域によってはカーボンニュートラル達成や特異な取り組みがニュースで取り上げられる場合があります。 最近では会社全体ではなく商品単位でカーボンニュートラルを達成し「ゼロカーボン商品」として販売する動きもあり、こうした話題はメディアで報道される可能性があります。 また、自治体や業界団体などでは環境に関する表彰や認定制度を設けている場合もあり、こうした賞や認定を受けることで自社の知名度・認知度の向上が可能です。
働く従業員の意識向上
脱炭素に会社を挙げて取り組むことで、働く従業員の意識向上につながります。 環境に優しい会社、社会の課題を解決する会社として、従業員から共感や信頼を獲得でき、従業員のモチベーションの向上も期待できます。また、採用の面においてもメリットが大きいと考えられます。 SDGsやCSR、環境問題などへ関心の高い人材から評価されたり、コンプライアンス重視の世の中で候補者から安心感をもってもらえたり、「この会社で働きたい」と思ってもらえる人材の確保が期待できます。
脱炭素に取り組む企業の事例
イオン
イオングループは2018年に「イオン 脱炭素ビジョン2050」を策定し、2030年までに国内の店舗使用電力の50%を再生可能エネルギーに切り替えることを中間目標として、「店舗」「商品・物流」「お客さまとともに」の3つを柱に、省エネ・創エネの両面から店舗で排出する温室効果ガスを総量でゼロにする取り組みを進めています。 「店舗」では排出するCO2等は総量でゼロに、「商品・物流」では事業の過程で発生するCO2等をゼロにする努力を続ける、「お客様とともに」では、全てのお客様とともに脱炭素社会の実現に努めることを掲げています。 特に「商品・物流」では、パートナー企業や消費者にCO2削減の協⼒を働きかけバリューチェーン全体で脱炭素社会の実現を⽬指すとしています。具体的には、PB商品の製造委託先企業に対して、CO2削減⽬標の設定を要請したり、CO2削減貢献商品の開発などを求めています。 https://www.aeon.info/sustainability/datsutanso/
森永乳業
森永乳業は2030年までの目標としてCO₂排出量を2013年度比で38%削減することを掲げています。原材料の調達から消費・廃棄に至るまで、フードサプライチェーン全体において環境負荷を最小化、環境に優しい商品の開発や製造を実施する方針です。 具体的には、CO2に次いで温暖化に大きな影響を与えるメタンについて、バイオガスプラントを有効活用することで牧場で排出されるメタンの排出量を最大30%削減することを目指しています。 事業所では、バイオマス熱の利用やグリーン電力の活用、グリーン電力証書の購入などの対策が行っており、コーヒーやヨーグルトなどの生産プロセスから発生するさまざまな残渣をメタン発酵でガス化、ボイラーの燃料に使用。年間約1000トン相当のCO₂排出量削減効果を実現しています。 また、物流においてもモーダルシフトを推進することで、東京~福岡間の常温輸送でCO₂排出量を77%削減、仙台工場から大阪への常温輸送でCO₂排出量84.2%削減を実現しています。 https://www.morinagamilk.co.jp/sustainability/resources_and_the_environment/
日本アクセス
食品卸最大手の日本アクセスは、気候変動対策や食品ロス削減など低炭素社会に向けた取り組みを公表しています。 2022年10月までに全国16の拠点で太陽光発電システムを導入し1500トン以上のCO₂を削減、ハイブリッドカー導入では年間約58トンのCO2を削減しています。 物流の効率化にも取り組んでおり、配送シミュレータ・TMS・BIツールや動態管理端末などの活用により積極的にDXを推進、積載率の向上、配送コースの最適化、車両削減などを図り、結果的に使用燃料やCO2排出量削減に繋がっています。 また、全国の27の物流センターでは遮熱塗装を施しており、夏場の物流センターの庫内温度上昇を抑え、室温では5℃~10℃低下、空調機器のエネルギーを抑制しています。 https://www.nippon-access.co.jp/corporate/sustainability/earth/
エフピコ
食品トレーの大手メーカーであるエフピコは、「エフピコ・エコアクション2.0」において、製品・SCM・生産・物流・販売・オフィスの各部門にワーキンググループを設置してさまざまな活動を行っており、エフピコグループ全体でCO2排出量の削減に向けた取り組みを実施しています。 CO2削減の施策の柱となっているのは「エフピコ方式」と呼ばれるリサイクル。使用済み容器を回収し、再生原料として使用することで、原料となる天然資源の石油使用量削減や、資源を循環させることによる廃棄物の削減、これに伴うCO2削減に貢献しています。 食品トレーの素材製造から廃棄、リサイクルまでの環境負荷を計算すると、同社の環境負荷低減商品である「エコトレー」や「エコAPET」は、原油から新しく作るトレーに比べてCO2の排出量を30%抑えることができ、この商品を提供することで2022年度にCO2を17万トンの排出を抑制しています。 https://www.fpco.jp/esg/environmenteffort/fpco_recycle/effect.html
丸信
食品向けのシール・ラベルやパッケージを印刷加工する丸信は、2020年1月にSDGs宣言を行い、その一環として環境に配慮した事業運営を目指すことを掲げました。 2021年8月には工場のある本社事業所でカーボンニュートラル(カーボンゼロ)を達成。 使用電力をすべて再生可能エネルギーに切り替え、どうしても削減することができない重油・ガス・ガソリン・軽油によるCO2排出分は、本社を構える福岡県久留米市の「かっぱの森Jークジレット」を購入することで相殺(カーボンオフセット)しています。 また、これに伴い、環境に優しい工場であることを示す独自の「CO2ゼロ印刷マーク(カーボンゼロマーク)」を策定し、本社工場で製造されるシール・ラベル、パッケージなどの製品にカーボンゼロマークを表示できるようにし、食品会社がシールやパッケージを通じて環境PRができる仕組みを構築しました。 カーボンゼロを達成している印刷工場は全国的にも珍しいことから、大きな差別化要素として環境資材の受注を増やしています。 https://www.maru-sin.co.jp/csr/carbonzero/
まとめ
食品事業者の脱炭素の取り組みの中でも、省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの使用は、大きな設備投資や割高な料金になる可能性もあるため容易には決断できないかもしれません。 そこで、必ず必要となるトレーやパッケージなどの資材を環境負荷の小さいものに切り替えたり、企業事例で紹介した脱炭素経営を実践する企業と取引するなど、まずはできることから始めてみてはいかがでしょうか。 食品業界において近い将来、脱炭素が当たり前となる時代が来るのは間違いありません。企業の経験値を積む意味でも、また従業員の意識向上・理解浸透を図る上でも、できる限り早い段階から脱炭素に向けた取り組みを始めることが求められるでしょう。 ▼カーボンゼロ達成の詳しい仕組みについては、こちらをご覧ください。 https://www.maru-sin.co.jp/csr/carbonzero/
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この記事のライター
ショクビズ編集部
企業の主な実績
オリジナルシールの企画・作成 10,000社以上
オリジナル紙箱・化粧箱・パッケージの企画・作成 11,000製品以上