コンビニエンスストアの王者セブン-イレブンで120店舗もの経営指導を実施し、担当地区の店舗合計年商を大幅に伸長させた経験を持つ信田洋二氏。本連載では、小売業のスペシャリストである信田氏に、消費動向やメーカーの目指すべき方向性などについて分かりやすく解説していただきます。
第13回も「小売りにおける部門間の壁」についてのコラムです。
今回は、『部門間の壁』を破るためのさまざまな事例について、解説を加えてみたいと思います。
「部門間の壁」という点については、これまでも店内ではさまざまな場所で発生していることをお話いたしました。小売業に直接関わっておられない方々にとっては、「何故?」という疑問が湧いていることと思います。特に、お店の規模があまり大きくない小型のお店においても、この傾向は変わりません。大型店、中型店においても、部門間の壁は非常に高く厚い状況ですが、小型店は、部門間の壁があったのでは売り上げは上げきれない状況となります。売場が狭く、隣の分類との距離もない状況の中ででもその様な部門間の壁が実際に存在しています。
ほとんどの店舗では、例えば、惣菜の売り場は、店舗動線上の最後に存在しており、これは野菜などの『素材』から続く一連の売場連動の中で、言わば『シメ』とも言える売場が惣菜の売り場となっているケースが多いですが、惣菜は、それ単独で売場の構成をしている場合が非常に多いかと思います。単独で売場の構成を成しているため、他との売場の連動や部門間の壁等は無いように思えますが、実は他との関係性がないと思われる売場だからこそ部門間の壁が明確にあります。
例えば、野菜や魚などには明確に『旬』の時期があり、季節ごとに好まれるもの(収穫できるもの)がありますが、これらを惣菜と合わせることはほぼありません。これも、いわば『部門間の壁』と言えます。旬の野菜などは、惣菜化させることで、十分にお客様へのアプローチができる可能性のあるものは多数あります。例としては、ナスやズッキーニなどの初夏の野菜等では、最もおいしい食べられ方は『天ぷら』です。これを総菜部門で天ぷらにして、野菜売り場の素材としてのナスやズッキーニの隣などで展開を図ります。そうすることで、ある意味で惣菜の商品は「完成系」(完成見本)として野菜の売り場にある商品が『素材」としてより輝かせることができるようになります。
しかし、ほとんどの店舗でこのような展開がなされてはいません。一部の店舗では、野菜売り場で販売している素材を活用した惣菜を販売しているケースも見られますが、それを野菜とセットで「野菜売り場」で展開をしているお店はほぼ見ることができません。お客様からすると、完成品を購入するケースも、素材を購入して自ら料理をする場合であっても、最も活用しやすいのは「素材の隣での完成品」があれば、完成見本がある訳ですので、レシピ集などは必要ありません。素材を料理するためのその他素材(天ぷらで言えば、小麦粉の量など)の量や種類が分るために必要ではありますが、より直接的な見本品としては実際に総菜売り場で製造した物が隣にあることで、惣菜、野菜の両方に大きく売れるチャンスがもたらされます。
しかし、このような単純明快な部門間の連携がなかなか取れないのが実情です。メーカーさんの商材の中でも、自社の商材と他社の商材を合わせることで、より完成品へのイメージがわくような商材は多くあるかと思います。それらをどのように活用できるのか?お店ともども考えて見る必要があるのではないでしょうか?
次回は、『菓子とデイリー品、一般加工食品』を合わせることでできる『部門間の連携(壁を破る)』お話を解説してみましょう。
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この記事のライター
信田 洋二
1995年株式会社セブン-イレブン・ジャパン入社。店舗経営指導員(OFC)並びにディストリクトマネージャー(DM)として、千葉県成田市を中心とした成田地区、千葉市内などの店舗合計120店舗に対する経営指導を実施。成田地区のDM在任時、担当地区の店舗合計年商を約140億円から約155億円に伸長。千葉県下(9地区)にて最も売上の低い地区を、第4位の売上となるまでに伸長させるなどの実績を上げた。その後、情報システム部を経て物流部に在籍。2010年株式会社Believe-UPを創業、コンサルタントとして独立。主に小売業を対象に、店長、マネジャー、SV育成、データを活用しての売場づくり指導などで幅広く活躍している。著書に『セブン-イレブンの物流研究』(商業界、2013年)『セブンイレブンの発注力』(商業界、2015年)がある。