コンビニエンスストアの王者セブン-イレブンで120店舗もの経営指導を実施し、担当地区の店舗合計年商を大幅に伸長させた経験を持つ信田洋二氏。本連載では、小売業のスペシャリストである信田氏に、消費動向やメーカーの目指すべき方向性などについて分かりやすく解説していただきます。
今回も、緊急掲載として、『史上まれにみる物価高』に消費者はどのように対応しようとしているのか?という点について解説をしたいと思います。今回は、肉や魚と言った生鮮食品で変わり始めた消費行動について解説してみます。
これまで、魚や肉といえば、スーパーマーケットでは言わば「買い物の主役」とも言える位置付けで商品の購入が多い状況でした。スーパーマーケットでは、野菜が入り口近くに展開されているケースが多いとは前回ご紹介しましたが、野菜は言わば「料理の土台」と言えます。
主婦の多くの方は、家族に健康的な食事を摂らせたい。野菜中心の食生活を目指したいとの思いが強い方が多く、野菜を可能な限り多く摂れる献立を、との思いを持たれている方が多数いらっしゃいます。ですので、「安い(旬の・新鮮な)野菜」が見付かり、それらを購入する事ができれば、「さぁ~この野菜を如何においしく食べるか?」と考えた献立作りが始まります。「料理の土台」としての野菜と言える所以です。
次に、お魚やお肉と言った「食卓の主役」とも言える商品群の選定を行うことになります。現代の食卓において、魚や肉の良質なたんぱく質が摂取できない料理は多くの場合あまり考えられない状況です。野菜を多く摂る事も考えてはいますが、いわばそれらは「食卓の主役」たる魚や肉を如何に美味しく食べるか?に基づいたものであり、これらの魚や肉は、なくてはならない存在となっています。それらの商品群の買われ方については、大きな変化が見られています。特に、大家族でお住いや育ち盛りのお子さんがおられるようなご家庭では、現下の物価暴騰は生活支出に直結します。
すぐに対応できる事としては、「グレードの格下げ」(国産肉⇒輸入肉など。但し、これも急激な円安傾向により、輸入コスト上昇で価格差が従来ほどではない)、「部位の変更」(鶏もも⇒鶏むね。ロース⇒赤身 など)、魚で言えば「魚種の変更」「入数の削減」など、現時点で対応可能であろう生活防衛の範囲で確実に対応しようとしています。生鮮食品の中でも、特に「食卓の主役」」と言われるこれらの魚や肉などにおいても、価格高騰の余波は確実に現れており、もはや季節指数による変化ということだけではとらえられない状況です。養殖の魚類などでも、餌代の基本となる穀物の輸入価格が急激に上昇しており、加えて養殖場にまで行くための漁船の燃料代も大きく高騰してしまっています。
これまでは、生産者さん側も価格の転嫁には慎重でしたが、経費負担増も限界点を迎え、価格転嫁する動きが第一次産業界でも進み始めています。その意味では、生鮮食品を購入する側からすると、何としても価格を抑える様な転換の方法を考えていると言うのが消費者の実情です。但し、全体がその様に動いているか?と言えばそうではなく、一部には「欲しいものは値段が上がってもそのまま我慢せずに買う」という動きもあります。価格が安いからといっても品質を落としたくはない、と言う意識の表れです。
それらの方々は、「モノ」を見る目が厳しく、「要不要」の区別をはっきりとさせて買い物をされるケースが非常に多い状況です。これらの人々は「要らないものは絶対に買わない」と言う主義の方が多く、衝動買いをほぼされない、ということが特徴的な消費行動です。これらの方々に消費(購入)して頂くことは非常に難しく、「必要」と感じて頂く為の方策を小売り側、メーカーさん側の双方からアプローチする必要があると思われます。
次回は、『不要と思われている商品を如何に購入頂くか?』と言う視点で、解説してみたいと思います。
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この記事のライター
信田 洋二
1995年株式会社セブン-イレブン・ジャパン入社。店舗経営指導員(OFC)並びにディストリクトマネージャー(DM)として、千葉県成田市を中心とした成田地区、千葉市内などの店舗合計120店舗に対する経営指導を実施。成田地区のDM在任時、担当地区の店舗合計年商を約140億円から約155億円に伸長。千葉県下(9地区)にて最も売上の低い地区を、第4位の売上となるまでに伸長させるなどの実績を上げた。その後、情報システム部を経て物流部に在籍。2010年株式会社Believe-UPを創業、コンサルタントとして独立。主に小売業を対象に、店長、マネジャー、SV育成、データを活用しての売場づくり指導などで幅広く活躍している。著書に『セブン-イレブンの物流研究』(商業界、2013年)『セブンイレブンの発注力』(商業界、2015年)がある。