さまざまな企業がAIの活用に乗り出し、業務効率化を進めています。特に食品業界は人手不足や生産性の観点から、AI活用の重要性が高まってきました。
この記事では、食品業界のAI活用の事例をまとめてご紹介します。
企業内部から業務を効率化し、生産性を上げたいと感じている方はぜひ参考にしてみてください。
食品業界は多くの課題を抱えている
まずは食品業界が抱える課題を解説します。
慢性的な人手不足
日本企業の多くが、慢性的な人手不足に陥っています。
その中でも、人手不足が深刻化しているのが食品業界です。
食品業界が人手不足になりやすいのは、アルバイトやパートなどの非正規雇用が多いのが理由のひとつです。非正規雇用者は短期間で離職する場合が多く、なかなか企業に根付きません。
また一から業務を教えるとなると、作業生産性も下がってしまいます。
加えて、食品業界は賃金が低く人が集まりにくいのも課題です。あえて食品業界を避ける人もいるため、慢性的な人手不足に陥ってしまいます。
手作業が多く作業生産性が低くなりやすい
食品業界は、他の業界に比べて人への依存度が高い業界です。
⚫︎食品工場のライン作業
⚫︎飲食店での調理・接客
⚫︎スタッフへの教育
多くの人手が必要になるため、作業生産性が低くなりやすいのがデメリット。人件費によるコストも大きく、不安定な状態が続きやすい業界です。
食品ロスが多い
食品業界で問題となっているのが食品ロスです。
令和3年度の食品ロス量は523万トン。このうち食品関連事業者から発生する事業系食品ロス量は279万トンにも及びます。参照:農林水産省
例えば食品メーカーでは、卸業者や小売店への欠品を出さないために、多めに生産しなければなりません。その結果、食品ロスが発生し処理コストがかかってしまいます。
日本の食料自給率は約40%です。しかし、これだけの食品廃棄が発生しているのは大きな問題といえるでしょう。
AIで課題解決に取り組んでいる食品事業者の事例10選
AIの活用で課題解決に取り組んでいる食品事業者の事例を紹介します。
商品開発のスピードを加速(セブンイレブン)
■引用画像:セブンイレブンHP(https://www.sej.co.jp/company/)より
セブンイレブンでは、2024年より商品企画に生成AIを導入しています。
商品企画では、企画から開発の段階で多くの社内会議が発生します。それに加えて、急激に変化する市場に追いつく開発スピードを維持しなければなりません。
そこで生成AIを活用し、作業効率化の推進や社内会議を削減。従業員が自分の業務に集中できる環境を整え、より良い商品企画ができるようになりました。
過去のデータから数分後の需要を予測(スシロー)
■引用画像:スシローHP(https://www.akindo-sushiro.co.jp/)より
回転寿司チェーン店「スシロー」では、AIのデータ活用を行っています。
店内のレーンを流れるすし皿にICタグを入れ、さまざまな情報を蓄積。
⚫︎お店ごとで人気のあるネタ
⚫︎どの商品の廃棄が多いか
⚫︎時間帯ごとの混雑率
これらのデータを活用することで、1分後と15分後の需要を予測しています。これにより、他社よりもレーンを流れるお寿司の量を増やし、お客様が楽しめるようになったそうです。
店舗数が多いチェーン店において、食品ロスを大きく減らせるAI活用事例といえます。
AIを活用して育てた養殖魚「うみとさち」
■引用画像:うみとろんHP(https://www.umitosachi.umitron.com/)より
ウミトロン株式会社では、シーフードブランド「うみとさち」を展開しています。
「うみとさち」とは、AI技術を活用して育てられたサステナブルシーフードです。
同社は、海に優しく効率的な餌やりを実現したスマート給餌機「UMITRON CELL」を導入。AIが魚の食欲に応じて餌を与えてくれる仕組みです。
ロスが減ることで、無駄な餌の海洋流出が防げ、環境にも優しい魚作りができています。
適切な餌を与えることにより、サイズや質が安定し、生育期間も1年から10ヶ月に短縮。安定した供給ができるようになったといいます。
お酒の商品開発を効率化「醸造匠AI」
■引用画像:キリンホールディングスHP ニュース2021「「醸造匠AI」に「レシピ探索機能」を追加し システムの試験運用を開始」(https://www.kirinholdings.com/jp/newsroom/release/2021/0818_02.html)より
株式会社三菱総合研究所とキリンホールディングス株式会社は、ビール新商品開発支援システム「醸造匠AI」を共同開発しています。
もともとお酒の良し悪しは、技術者の知見や経験を元に判断するしかありませんでした。そのため個人差があり、品質にブレが出てしまうのが課題だったそうです。
「醸造匠AI」は、過去の試験醸造データを学習し、どのような試作ができるのか予測してくれます。また自動でレシピを開発してくれる機能もあり、経験の浅い技術者でも、熟練技術者のように商品開発ができるようになりました。
業務効率化だけでなく、後継者不足の企業にも役立ちそうなAI活用といえます。
AI献立作成システムを活用「フレアサービス」
■引用画像:株式会社フレアサービスHP(https://www.flare.co.jp/)より
介護福祉給食、障がい者福祉給食、医療施設給食などを展開するフレアサービス。同社ではAI献立システムを活用し、業務効率化を実現しています。
今までは、食材の原価計算からレシピ考案まで2週間ほどかかっていたそうです。また複数の管理栄養士・栄養士で献立を作成すると、レシピの被りや評価基準のズレが多発し、職場内でもトラブルが発生していました。
しかしAI献立システムを使用すると、それらの作業が約15分で終わります。これにより従業員の作業生産性が大幅に向上。人手不足と業務効率化の課題解決につながったそうです。
過去のデータから来客数を予測する「サキミル」
■引用画像:ソフトバンクHP AI需要予測サービス「サキミル」資料ダウンロード(https://biz.tm.softbank.jp/pg7788-web-doc-entry-sakimiru.html?_gl=1*1cok3rl*_gcl_au*NTY1NjA1MDkyLjE3MjU1MjIwODE.)より
ソフトバンク株式会社と一般財団法人 日本気象協会は、AI需要予測サービス「サキミル」を共同開発しました。
ソフトバンクから性別や年代などのデータ、そして気象協会の天候情報を掛け合わせ、独自のAIアルゴリズムにより、高精度な分析・予測ができるシステムです。
スーパーやドラッグストアを展開する株式会社バローホールディングスでは「サキミル」を導入。来店客数予測の精度は約93%を記録し、機会ロスやフードロスの改善につながったそうです。
特に小売業や飲食業では、「サキミル」のようなサービスが役立つでしょう。
生産計画システムの導入で立案時間が約10分の1「ニチレイフーズ」
■引用画像:ニチレイフーズHP(https://www.nichireifoods.co.jp/)より
冷凍食品などを手がけるニチレイフーズでは、AI技術の導入により業務効率化を実現しています。
同社では、生産計画と要員配置計画を自動立案するAIシステムを導入。計画立案においては、従来の10分の1程度の作業時間に短縮できたといいます。
この仕組みは、複数人の熟練者の計画パターンを数値化して、それらを組み合わせて解析し、精度の高い計画が立てられるというものです。
結果、労働時間の低減や休暇取得率の向上が実現でき、働き方改革が進みました。
生成AI「NISSIN AI-chat」を開発した日清食品
■引用画像:日清食品ホールディングス「日清食品グループのDXへの取組について」2024/3/14(https://www.nissin.com/jp/ir/library/event/pdf/20240314_2.pdf)より
日清食品では、生成AI「NISSIN AI-chat」を独自開発しています。
いわゆる社内ChatGPTのような位置付けで、事務職など、いわゆるホワイトカラー業務の従業員約4800人が使っています。
通常のChatGPTだと情報漏洩リスクがあり、企業での活用は難しい部分がありました。しかし自社独自の「NISSIN AI-chat」であれば、セキュリティが担保され、安心して活用できます。
社内ChatGPTは、オフィスワークの業務効率化として有効な策といえるでしょう。
AIの需要予測で食品ロス削減「需給最適化プラットフォーム」
■引用画像:NEC HP 需給最適化プラットフォーム(https://jpn.nec.com/vci/optimization/index.html)より
NECは、食品ロス削減に役立つ「需給最適化プラットフォーム」を提供しています。
膨大なデータから精度の高いものを抽出し、販売における需要を予測するというものです。
⚫︎食品メーカーの在庫・生産管理
⚫︎物流倉庫のリソース効率化
⚫︎小売業の発注の最適化
このような課題を解決できるシステムとして注目を集めています。
多くの食品ロスを削減できるだけでなく、収益向上にも貢献できるのがメリットです。
1時間に250食を盛り付ける「コネクテッドロボティクス」
■引用画像:コネクテッドロブティクスHP 盛り付けロボット「DELIBOT」(https://connected-robotics.com/products/delibot/)より
東京都のコネクテッドロボティクスでは、盛り付け用のロボット「Delibot(デリボット)」を提供しています。
Delibotは、1時間当たり250食分の作業をこなせるロボットです。人間がやると300〜400食盛り付けられますが、休憩せずに稼働できることを考えれば、大幅なコスト削減につながります。
またAI技術により、容器内の状況をすぐさま判断し、ロボットのハンド部(分)を調整。人間と同じような丁寧さで盛り付けができ、生産性の向上につながっています。
国も中小企業のAI活用を促進している
食品業界のAI活用事例について紹介しました。
この先、食品業界では、AI活用が活発化していくはずです。今のうちから導入を進めれば、人手不足の解消や業務効率化につながります。
経済産業省では、中小企業のAI活用を促進する「AI導入ガイドブック」を発行しています。
中小企業がAIを導入する際に必要な体制準備や準備、実証手法などについて詳しく書かれていますので、AI活用をご検討中の企業はぜひ目を通してみてください。