コンビニエンスストアの王者セブン-イレブンで120店舗もの経営指導を実施し、担当地区の店舗合計年商を大幅に伸長させた経験を持つ信田洋二氏。本連載では、小売業のスペシャリストである信田氏に、消費動向やメーカーの目指すべき方向性などについて分かりやすく解説していただきます。
第9回は「小売りにおける部門間の壁」についてのコラムです。
今回からは、「小売りにおける部門間の壁」という内情から、メーカーの皆さんに考えていただきたいことを解説します。
皆さんのご自宅で出現頻度の高い食事メニューといえば何でしょうか?カレー、焼肉、それとも餃子でしょうか。これらも食卓では大変出現頻度の高いメニューだとは思いますが、秋が始まる時期から冬の終わりまで、食卓に多く登場する食事メニューといえば、やはり「鍋関連」ではないでしょうか。
さて、その「鍋関連」の商材ですが、スーパーマーケットなどを覗いてみますと、普段あまり意識していない「店内での部門間の壁」に直面することになるのではないかと考えられます。
メインの入口付近では、一般的に「青果関連(果物・野菜)」のコーナーが先陣として広めの売り場を占めていると思います。これには明確な理由があり、実は来店されるお客様のおよそ70~80%程度が、その日の献立を決めずに来店されます。来店後に「良い(安い)野菜があった」という理由から、その日の献立を組み立てていくというケースが非常に多い購入のされ方となっているのです。
ですので、野菜関連の売り場では秋~冬にかけて、白菜やネギ類、キノコ類などを一堂に会して、店頭近くの広い面積で「鍋関連コーナーはこちら!」のような大々的なアプローチを行います。そこには、恐らく鍋料理のベースとなる野菜類がふんだんに並べられ、いやが上にも、「鍋が食べたくなる気分」にさせられます(夕方などで、急に冷え込むとさらにその傾向が強くなります)。
ここからが問題で、すっかり「鍋気分」となったお客様が次いで向かう売り場は、多くが「鮮魚」の売り場です。しかし、店の鮮魚売り場では、「鍋気分」になれるような品揃えやアピールになっていないことが多く、場合によっては「干物大放出!」といった鍋には使えないアプローチがなされていることもあります。
また、精肉コーナーでは「アメリカンステーキフェア!」といった野菜をほとんど活用しないメニューがメインディッシュの「オシ」となっていたりと、店内の各部門が一つのメニューでそれぞれの商材をおススメする状況になっておらず、残念ながらバラバラになってしまっている状況が散見されます。これが、いわば「部門間の壁」であり、せっかく「鍋気分」になったお客様を混乱させることにもつながりかねない状況です。
実は、この「部門間の壁」は、メーカーの商品供給体制でも見ることができます。
鍋の材料で非常に重要な商品は、「鍋つゆ」です。しかし、これも店内をよく見渡すと、野菜売り場にも、鮮魚売り場にも、精肉売り場にも、そしてメインとなるグロサリーの売り場にも「鍋つゆ」があります。
お客様の立場に立つと、これほど混乱することがあるでしょうか。「鍋」を食べるにあたって、どれが一番おススメのものなのか、店内のどこを探してもほとんどの店舗ではその記載がありません。結果的に「普段から味になじみがあり、テレビCMなどでもよく見かける」グロサリー扱いのメーカーのものを選ぶことに落ち着いています。
このことは、お客様が「正しく商品を選べない」と同時に、メーカーにとっても「自信作をお手に取っていただけない」という実に不幸な事態を引き起こしています。
次回は、「小売りにおける部門間の壁」について、そのことが起こる背景について解説してみたいと思います。
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この記事のライター
信田 洋二
1995年株式会社セブン-イレブン・ジャパン入社。店舗経営指導員(OFC)並びにディストリクトマネージャー(DM)として、千葉県成田市を中心とした成田地区、千葉市内などの店舗合計120店舗に対する経営指導を実施。成田地区のDM在任時、担当地区の店舗合計年商を約140億円から約155億円に伸長。千葉県下(9地区)にて最も売上の低い地区を、第4位の売上となるまでに伸長させるなどの実績を上げた。その後、情報システム部を経て物流部に在籍。2010年株式会社Believe-UPを創業、コンサルタントとして独立。主に小売業を対象に、店長、マネジャー、SV育成、データを活用しての売場づくり指導などで幅広く活躍している。著書に『セブン-イレブンの物流研究』(商業界、2013年)『セブンイレブンの発注力』(商業界、2015年)がある。