コンビニエンスストアの王者セブン–イレブンで120店舗もの経営指導を実施し、担当地区の店舗合計年商を大幅に伸長させた経験を持つ信田洋二氏。本連載では、小売業のスペシャリストである信田氏に、消費動向やメーカーの目指すべき方向性などについて分かりやすく解説していただきます。
第5回となる今回は、前回に引き続き「コロナ前後で変わるお客様の消費動向」についてのコラムです。
さて、今月は「情報の出し方」について、具体的に売上が変わった例を解説したいと思います。メーカーから出される情報の多くが、「こだわりの原材料や製法」「味の紹介」という内容が多いと思われます。これまでの商売では、このような形でメーカーの「作り手の思い」の詰まった情報などを掲示していれば、お客様の反応も良く商品購入につながっていましたが、それだけでは飽き足りないお客様が増えてきているのが大きな特徴といえます。
その理由は、これまでも述べてきたように、巣ごもり需要の増加やオンライン飲み会など「新様式」といわれる生活様式での新たな志向に変化していることだと考えられます。その中で「どのような情報の出し方をするべきか」の具体的な方法について、実績を上げていた内容を解説してみたいと思います。
最も分かりやすい例は「ワイン」でしょう。日本人にとって、なじみが薄い商材であるワインは、どのような場面で飲めばおいしいのか、なかなか伝わり切れていない商材です。ワインに掲出されているありがちな商品説明としては、「フルーティーで芳醇な香り」「スパイシーなブドウの味わい」(主に赤ワイン)、「すっきりとした辛口の飲み口」(主に白ワイン)と、一見読んだだけでは「?」が付くようなイメージのものが多いのが実情です。ワインに詳しいお客様であれば、こういった表現でも十分に伝わりますが、大半のお客様にはこの情報だけではあまり伝わりません。
そこで実施した内容は、小売り側としてでき得る限りの商品情報を出すということでした。ワインの瓶(フルボトル)にちょうど合う一般的な名刺サイズの紙に、商品名、産地、価格、ワインの濃さ(フルボディ~ライトボディなど)を記載した上で、小売りからの提案として、食卓によく上がるような一般的なメニューの名前(すき焼き、おでん、焼肉、餃子、野菜炒め、白身魚の刺身、貝の刺身、焼きそば、ミートソース系パスタなど)を思いつくままに「オススメの料理」として掲出して、お客様との「商品情報でのコミュニケーション」を取りました(1品当たりの記載メニューは3つ程度)。
この効果により、ワインの売上は店舗当たりの平均日販で約300%向上となりました。分母が非常に小さい分類ですので、何かしらの取り組みを行うことで、すぐに数字が動く分類ともいえます。お客様にとってみれば、「どのように(何の食事に合わせて)飲めばいいのか」の指針が示されることによって、「買う気にもなる」ということを作る側のメーカーにも意識いただきたい事例です。
この取り組みはワインだけでなく他の商材(特に、何かしらの加工などが必要となる商品)についても、「どう食べれば(使えば)おいしい(便利な)のか」という情報の出し方をすることで、さらにお客様との距離が縮まり、身近に感じていただけるのではないかと思います。
今、お客様が求めているのは、「お客様自らにとってどのようなメリットがあるのか」が中心となった情報です。作り手の製品に対する思いが強いのは理解できます。しかし、それが全てお客様に伝わるわけではありません。「お客様にとってどうか」をいつも意識した情報の内容と出し方を考えていただきたいと思います。
次回は、「商品の量目」について解説したいと思います。
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この記事のライター
信田 洋二
1995年株式会社セブン-イレブン・ジャパン入社。店舗経営指導員(OFC)並びにディストリクトマネージャー(DM)として、千葉県成田市を中心とした成田地区、千葉市内などの店舗合計120店舗に対する経営指導を実施。成田地区のDM在任時、担当地区の店舗合計年商を約140億円から約155億円に伸長。千葉県下(9地区)にて最も売上の低い地区を、第4位の売上となるまでに伸長させるなどの実績を上げた。その後、情報システム部を経て物流部に在籍。2010年株式会社Believe-UPを創業、コンサルタントとして独立。主に小売業を対象に、店長、マネジャー、SV育成、データを活用しての売場づくり指導などで幅広く活躍している。著書に『セブン-イレブンの物流研究』(商業界、2013年)『セブンイレブンの発注力』(商業界、2015年)がある。