保存食の多様化と中小企業が参入するメリットや事例を徹底解説
目次
近年、保存食の多様化が進み、食品業界で注目されています。
中でも昔ながらの日本の伝統技術を活かした発酵食品や乾燥、燻製なども「保存食」として見直されており、食の伝承といった点でも再注目の食品となっています。
その他に注目されているのが、現代のパッケージ技術を取り入れた新しい保存食です。
中小企業は、柔軟性のあるアイデアや地域の食材を活用した商品開発を軸にすると、新しいビジネスチャンスがつかめるかもしれません。
この記事では、保存食市場の動向や保存技術の紹介、企業の事例について詳しく解説します。
広がり続ける保存食市場
近年、自然災害やパンデミックを受けて、保存食の需要が拡大しつつあります。
市場調査などを行っている矢野経済研究所の調査によると、2020年度の防災食品の市場規模は約258億5,400万円で、前年度比111.5%の成長を見せています。背景には、災害対策や健康志向の高まり、食品ロス削減への取り組みなどが挙げられます。
これらのデータから、保存食市場は今後も成長していく分野だと予測できます。
一方で、中小企業がこの市場に参入する場合、従来の保存食にプラスし、多様化するニーズに対応することで新たな価値を生み出せます。
常に新しいアイデアを考え、消費者に価値提供できる商品を考えていきましょう。
保存食市場が注目されている3つの理由
保存食市場が注目されている理由をまとめて紹介します。
健康志向と伝統食品への関心の高まり
健康志向の高まりとともに、発酵食品や伝統的な保存食が再注目されはじめました。海外でも「ジャパニーズ・スーパーフード」として人気を集めています。
例えば、味噌や納豆、漬物などの発酵食品は、腸内環境を整える効果が期待できます。
こうしたニーズを捉えて商品を開発すれば、差別化を図りながら売上アップを狙えます。
食品ロス削減への意識が高まった
日本では、年間約500万トンもの食品が捨てられており、大きな課題となっています。こうした中で、保存食は食品ロス削減に貢献できると注目されているのです。
保存食は長期保存できるため、捨てる頻度が少なく、廃棄を減らせるメリットがあります。環境問題への関心が高まる中、保存食はより注目を集めていくでしょう。
非常食としての需要増加
日本では地震や台風などの自然災害が増え、非常食への関心が高まっています。また、新型コロナウイルスのパンデミックをきっかけに、非常食のような長期保存できる食品をストックする人も増えました。
最近は、非常食を日常的に食べて補充する「ローリングストック」が広まりつつあります。
この背景から、家庭用だけでなく、企業や学校向けの保存食市場への参入もおすすめです。
日本の伝統的な保存技術
日本の伝統的な保存技術をまとめて紹介します。
微生物の力を利用した「発酵」
「発酵」は、微生物の力を利用して保存性を高める日本の伝統技術です。例えば、味噌や醤油、納豆、漬物などもすべて発酵食品です。
また発酵食品は、腸内環境を整える乳酸菌や、栄養を吸収しやすくする酵素を含むため、体に良いといわれています。
さらに、発酵の過程で食品が腐りにくくなるだけでなく、独特の風味やうまみが生まれるのも魅力です。日本人の味覚に合うものが多く、日常的に親しまれています。
水分を飛ばして保存性を高める「乾燥」
「乾燥」は、食品から水分を飛ばして保存性を高める技術です。
水分が多いと細菌やカビが繁殖しやすくなりますが、乾燥させるとこれらの微生物が増えにくくなり、長期保存できます。
例えば、干ししいたけやドライフルーツ、切り干し大根などは乾燥食品のひとつです。これらの食品は栄養や味が凝縮され、料理に使うと深い味わいを楽しめます。
乾燥食品のメリットは、軽くて場所をとらず流通させやすい点です。中小企業としても開発に取り掛かりやすく、新しいアイデアのひとつとしておすすめです。
保存性と風味アップにおすすめな「燻製(くんせい)」
「燻製」は、食材を煙でいぶして保存性を高める方法です。
煙には、細菌やカビの繁殖を抑える成分が含まれています。また香ばしい香りがつくため、食材のおいしさが引き立ちます。
例えば、ベーコン、スモークチーズ、スモークサーモンなどは燻製食品の代表的な例です。
食材を保存するための知恵として使われてきましたが、現代ではその風味が好まれ、商品の価値を高める手段となっています。
素材そのものを活かせる「塩漬け」
「塩漬け」は、食品に塩をまぶしたり漬け込んだりして保存性を高める方法です。塩は水分を引き出し、細菌やカビの繁殖を防ぐ働きがあります。
例えば、梅干しやたくあん、塩サバなどは塩漬けのひとつです。
塩漬けの魅力は、素材そのものの味を活かせる点です。塩で食材の旨みが引き出され、熟成が進むにつれ、より深い味わいを楽しめます。
製法もシンプルなので、中小企業でも開発に取り掛かりやすい保存食です。
細菌の繁殖を防げる「酢漬け」
「酢漬け」は、食品を酢に漬けることで保存性を高める方法です。
酢は酸性のため、細菌やカビの繁殖を防ぐ効果があります。ピクルスやらっきょう漬け、紅ショウガなどが代表的な例です。
酢漬けの魅力は、保存性が高まるだけでなく、酸味によって食品のおいしさが引き立つ点です。
食欲を促したり疲労回復をサポートしたりする働きも期待でき、健康を意識している消費者にアプローチできる保存食です。
空気との接触をさけて酸化を防げる「油漬け」
「油漬け」は、食品を油に漬けて保存性を高める方法です。油は食品を空気から遮断し、酸化を予防できます。
例えば、アンチョビやツナ缶、オイルサーディンなどは油漬け食品のひとつです。
油漬けの魅力は、保存性だけでなく、食品にコクや風味を加えられることです。漬け込む際にハーブやスパイスを加えれば、より深い味わいや香りが楽しめ、調味料としても活躍します。
現代の保存(パッケージ)技術で選択肢を広げよう
ここまで伝統的な保存技術について紹介してきました。
ここからは現代の保存技術について解説します。
加熱処理による「レトルト技術」
「レトルト技術」は、食品を密閉した袋や容器に入れ、高温で加熱することで、微生物を死滅させるパッケージ技術です。
これにより、常温保存が可能な食品を製造できます。例えば、スーパーで見かけるレトルトカレーやパスタソースなどは、この技術が使われています。
中小企業にとっても、常温で流通できるため、コスト削減につながるはずです。レトルト技術は、保存性と利便性を兼ね備えた加工方法として、多くの可能性を秘めています。
酸素を除去する「真空パック」
「真空パック」は、食品を袋や容器に入れ、中の酸素を減らして保存性を高める技術です。肉や魚、野菜、さらにはお菓子やパンなど、さまざまな食品に使われています。
真空パックのメリットは、食品の鮮度や香りを保ちながら長期保存できる点です。さらに、袋がぴったりと食品に密着するため、流通しやすいのもメリットです。
真空パックは、食品の魅力をそのまま届けられる、シンプルなパッケージ技術といえます。
熱を加えずに保存性を高める「高圧処理」
「高圧処理」は、食品に高い圧力をかけて保存性を高める技術です。
全く熱を使わないため、食品の色や風味、栄養価を損ないにくいのが魅力。また、添加物を減らせることから、健康志向の消費者にも人気があります。
例えば、ジュースやジャム、生ハムなどの加工食品に使われることが多いです。高圧処理は、新鮮さと保存性の両方を兼ね備えた、付加価値のある商品開発ができます。
二重の包装材で包む「二重包装」
「二重包装」とは、食品を二重の包装材で包んで、保存性を高める方法です。
外側の包装材は光や湿気、衝撃から食品を守り、内側の包装材は酸素や細菌の侵入を防ぎます。
例えば、スナック菓子は箱やパッケージが輸送中の衝撃や湿気を予防し、中の袋が食品を守っています。
さらに、二重包装は食品の見た目を良くするのにもおすすめの技術です。ギフト用のお菓子を例に挙げると、包装材に美しいデザインを施して、商品の魅力を高められます。
二重包装は、食品を守るだけでなく、見た目の魅力も上げられるパッケージ技術です。
薄い金属フィルムで包む「アルミ包装」
「アルミ包装」とは、食品を薄い金属フィルム(主にアルミニウム)で包むパッケージ方法です。
アルミニウムは光や湿気、酸素を通しにくい性質があります。例えば、スナック菓子やインスタントコーヒー、チョコレートなどの包装によく使われています。
また、アルミは熱に強いので、オーブンで加熱する冷凍食品やレトルト食品の包装にも利用されています。
アルミ包装は軽くて丈夫なため、持ち運びや輸送にも便利です。密閉性も高く、食品メーカーとして取り扱いやすいのもメリットです。
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中小企業が保存食市場に参入するメリット
中小企業が保存食市場に参入するメリットを解説します。
特定のニッチ商品に絞って開発できる
中小企業の強みは、特定のニッチ商品に絞って商品開発ができる点です。ターゲットを絞って開発するため、大手企業が手を出しにくい分野といえます。
例えば、グルテンフリーやヴィーガン対応の保存食は、ニッチ商品の良い例です。これらの商品は、中小企業の柔軟性が活かされやすい分野です。
このように「健康的」「環境に良い」といったキーワードを意識して保存食を開発すれば、新しい見込み客を開拓できるかもしれません。
地域の特産品を活かした商品開発が可能
地域の特産品を活かした保存食も狙い目です。
中小企業は、地元に根付いているからこそ、特産品を使った独自商品を開発できます。
例えば、廃棄予定のフルーツを乾燥させて作るドライフルーツや、伝統的な漬物を真空パックにするなど、地元の魅力を詰め込んだ商品は他社との差別化につながります。
地域の魅力を伝える商品開発は、中小企業だからこそ参入できる分野です。
設備投資のコストが安い
保存食は、小さな設備から始められるものも多く、コストを抑えて開発が進められます。
例えば、乾燥食品を作るための乾燥機や、真空包装ができる真空パック機などは、小型の機械でも十分に対応できます。
また、伝統的な塩漬けや酢漬けは、特別な機械は必要なく手作業で行えるため、初期費用を抑えて製造を開始できます。
小規模な設備で少量ずつ生産し、消費者の反応を見ながら徐々に拡大していきましょう。
保存食×パッケージでビジネスチャンスを生み出した企業事例
保存食とパッケージの工夫でビジネスチャンスを生み出した企業の事例を紹介します。
名古屋市中川区のオリジナルパッケージ非常食の導入
■画像引用元:えいようかん|井村屋 HPより(https://www.imuraya.co.jp/eiyo-kan/)
名古屋市中川区(自治体)では、井村屋と連携し、オリジナルパッケージの非常食「えいようかん」を導入しました。
「えいようかん」とは、長期保存ができる羊羹です。通常の羊羹よりも甘さが控えめで、食べやすい工夫がされています。
もともと羊羹は保存食として優れており、警視庁でも「災害時に手軽にとれる携行食」として紹介されています。
このプロジェクトでは、パッケージを中川区のオリジナルデザインにし、地元の人たちに親しみを持ってもらいながら、非常食の大切さをアピールしています。
家庭や学校、会社などで備蓄され、災害時だけでなく、普段のおやつとしても食べられるのが魅力です。
「えいようかん」は非常食の新しい形として、地域防災のモデルケースになっています。
アルファー食品株式会社のハラール対応非常食
■画像引用元:アルファー食品株式会社 HPより(https://www.alpha-come.co.jp/index.html)
アルファー食品株式会社は、非常食や保存食をメインに開発している食品メーカーです。
その中でも、ハラール対応の非常食で注目を集めています。ハラール対応とは、イスラム教の教えに基づいて作られた食品で、豚肉やアルコールを使用していないのが特徴です。
アルファー食品株式会社では、ガス置換包装という技術を活用。袋の中の酸素を窒素や二酸化炭素に置き換え、ハラール対応の食品の保存性を高めています。
これにより、災害時の備えとしてだけでなく、海外の人たちが多く集まるイベントでも活躍しています。
最新技術とハラール対応を組み合わせた商品は、便利で先進的な保存食といえるでしょう。
ピックルスコーポレーションのガス置換食品
■画像引用元:ピックルスコーポレーション HPより(https://www.pickles.co.jp/)
ピックルスコーポレーションは、漬物や惣菜を展開している食品メーカーです。
その中でも注目されているのが、ガス置換包装を活用した食品です。
この方法により、食品が酸化したり細菌が繁殖したりするのを予防し、食品の消費期限を伸ばすことに成功。水分が多く新鮮さを保つのが難しい食品でも、美味しさを維持できています。
保存料の使用も減らせるため、体にやさしい食品として根強い人気があります。
おいしく食べる長期保存食「イザメシ」
■画像引用元:IZAMESHI HPより(https://izameshi.com/)
「イザメシ」は、杉田エース株式会社が展開する非常食ブランドです。
ただ保存するだけでなく、「おいしく食べる長期保存食」をコンセプトとしています。
一般的な非常食は、保存に特化しているため味は二の次でした。しかしイザメシは、普段の食事と変わらない美味しさを追求したメニューが揃っています。
例えば「あんこ餅」は、トロッと食感のお餅に、優しいあんこの甘さがマッチする人気商品です。
パックの中で保存され、賞味期限は製造日より3年。調理も簡単で、付属の「戻し用の水」を使えば、すぐに食べられます。
非常時だけでなく、普段の生活の中で消費できる「ローリングストック」にもぴったりの保存食です。
保存食は中小企業でも参入しやすい市場
低コストで参入できる「保存食」は、中小企業に多くの選択肢を与えてくれます。
特定のニッチ商品に絞った開発がしやすく、地域の特産品、グルテンフリーやヴィーガンなど、トレンドに合わせた商品を開発すれば差別化が図れます。
大企業にはない柔軟性を活かし、新しいアイデアを考えてみてはいかがでしょうか。
この記事のライター
ショクビズ編集部
企業の主な実績
オリジナルシールの企画・作成 10,000社以上
オリジナル紙箱・化粧箱・パッケージの企画・作成 11,000製品以上