本コラム「シリーズ 食品分析の現場から」では、丸信の食品分析室・顧問で経営全般のプロフェッショナルである門田直明氏に、食品分析の知っておきたい情報や衛生管理に関する法改正で必要となる対応などについて、定期的に解説していただきます。
現在、食品衛生法及び乳等(乳及び乳製品並びにこれらを主要原料とする食品)省令で、各種食品の微生物基準が定められています。その基準を超えた菌数の商品を販売した場合、食品衛生法違反になるのをご存知ですか。
食品メーカーは、微生物基準以内の微生物基準(菌数)以下であることを守るために、微生物試験(菌検査)を、確認・管理することが必須になります。
※食中毒の発生やクレームがなくても、取引先での製品受入検査、関係省庁や消費者団体などの店頭での抜き取り試験で、微生物基準が遵守されていないと法令違反であることから、製品の回収、取引停止、メディアなどで食品事件として報道されるリスクもあります。
代表的な食品の微生物基準が次の表です(厚生労働省の資料より)。
表 各種食品の微生物規格基準(一部抜粋)
そもそも微生物とは?
微生物とは、自然界に存在する生物のうち、一般的には肉眼で見ることができない小さな生物の総称です。微生物には以下のような特徴があり、様々な種類が存在します。
(1)細菌1~5μm位(μm:マイクロメーター、1mmの1000分の1)、カビ・酵母は5μm以上位で、光学顕微鏡で見ることができる。ウイルスは、20~120nm(nm:ナノメーター、1μmの1000分の1)位で、電子顕微鏡でしか捉えることができません。
(2)微生物は小さい順に、ウイルス、細菌、原虫、酵母、カビなどに分類されます。
(3)微生物の増殖には、栄養素、水分、温度の3つが必要条件です。
(4)有用微生物(発酵):古代から人類は経験的に、カビ・酵母・乳酸菌などの微生物を活用して「発酵食品」をつくってきました。
【例】パン、ヨーグルト、チーズ、お酒(日本酒、ビール、ワイン)、調味料(味噌、醤油、みりん、酢)、漬物、納豆、鰹節、塩辛、アンチョビ、発酵茶(紅茶、ウーロン茶)など。
(5)食中毒の原因となる微生物(腐敗):黄色ブドウ球菌、サルモネラ属菌、腸炎ビブリオ、病原大腸菌、ウエルシュ菌、ボツリヌス菌など。
(6)腸内細菌(腸内フローラ):ヒトの腸内には、約3万種類、100~1000兆個の細菌が生息しています。「善玉菌」「悪玉菌」などと分類されており、最近、腸内細菌と健康との関係の研究が進み、注目を浴びています。
「食品微生物試験」が必要な8つの理由
1.食中毒の予防、原因分析と再発防止対策に必須です。
食品の微生物検査とは、食品事業者が食品の安全性を確認するために、食中毒を引き起こす微生物の有無や衛生状態の確認のために菌数を調べるものです。
食品事業者は原材料の調達・製造・輸送・保管といったフードチェーン全体で食品の安全性を確保し、確認する必要があります。
例えば、原材料の受入検査、製造工程での拭き取り検査、製品開発時の植菌検査(特定の微生物を接種して、その微生物によるリスクを確認する検査)や保存検査(食品を一定条件で保管して検査し、保存期間内における食品の安全性を確認する検査)、最終製品の抜き取り検査などが行われます。
検査で基準値を超えていた場合には原因の追究と洗浄などその対策を行い、衛生状態が改善されたかどうかを微生物検査にて再度確認します。
このように微生物検査は、食品における微生物学的リスクを確認するために実施されます。
2.食中毒が発生した場合、行政処分、関係省庁ホームページなどに発表、メディア等での報道により、お客様の信用をなくし、経営の大きなリスクになります。
3.食中毒、変敗(色・味・香などが異常)などのクレームが発生した際、保健所、取引先から微生物検査、理化学試験など品質管理の実施履歴データを要求されます。
4.環境調査:施設や設備、調理機器、従業員の「拭き取り検査」「ATP測定」「落下菌試験」を行うことにより「食中毒による健康被害の予防」「施設衛生管理」「従業員の衛生意識改革」 が向上し、より安全・安心な製品の製造ができるようになります。
5.安全性の確認:食品事業者等が食品の微生物試験を行う大きな目的は、製品の安全性を確認するためです。消費者は、販売されている製品の全てが「安全・安心」であると思い購入しています。そのため食品事業者は、安全かつ安心して食べてもらえる製品を常に同じ品質で消費者へ提供することが求められます。
製品の安全性を確認する上で、微生物試験は非常に重要な役割(有害微生物生残の確認、消費・賞味期限の設定など)を担っています。
6.売上の向上:微生物試験を行って売上が上がるということにピンと来ない方も多いのではと思います。実は微生物試験を行って、結果として「売上の向上」につながるケースが多々あります。
微生物試験の実施→その製品の安全性の確認が取れ→継続して実施することで品質が安定→その成果としてクレーム件数が減少することで→さらにはお客様の信頼性も向上する→ブランド力が向上→その結果として「売上の向上」につながります。
7.2021年6月HACCP制度の完全義務化の管理項目において微生物試験は必須です。
8.海外輸出入での対応:日本に輸入される食品はもちろんのこと、海外に食品を輸出する際にも各国で定められた基準に適合している製品のみが受け入れされます。
海外から輸入する際には、日本で定められている基準に適合していること、海外へ輸出する際には、対象となる国で何が必要となるのかを事前に確認し、準備する必要があります。
HACCPなど世界標準の品質管理を行うことで、海外への輸出が可能になります。
<参考資料>
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000093967.pdf
<プロフィール>
株式会社丸信 食品分析室 顧問 門田 直明
1984年九州大学農学部食糧化学工学科食品分析学教室卒業。同年大塚製薬グループの大塚化学株式会社食品研究所入社。食品分析室の設立、飲料・食品の新製品開発、海外からの新製品の輸入業務・品質管理・シリーズ商品の開発輸入、海外からの原料の開発輸入、中国への食品事業進出、本社生産本部などに従事。2003年に食品技術サービスを中心とするコンサルタントとして独立、2007年コーライフ・クリエイツ株式会社設立。高知県食品産業クラスター協議会コーディネーター、2009年高知大学客員教授、土佐フードビジネスクリエーター人材創出事業講師。食品メーカー、地方自治体など新製品開発支援、経営全般(経営戦略、人財育成、工場運営、収益改善、生産管理、品質管理、資材調達、海外展開など)支援。18年間での累計支援企業約300社。
丸信では、正確でスピーディな「食品検査サービス」で微生物検査も承っております。
詳しくは、当社が運営する食に関する衛生問題のソリューションサイト「食品衛生.com」の「食品検査サービス」をご覧ください。
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この記事のライター
ショクビズ編集部
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