子ども食堂の課題とは。「食べる力が生きる力」地域で子育てを考えるNPO法人が伝えたいこと | ショクビズ!

子ども食堂の課題とは。「食べる力が生きる力」地域で子育てを考えるNPO法人が伝えたいこと

公開日:2023.07.11 更新日:2024.09.11
ライター:ショクビズ編集部

福岡県久留米市を拠点に子ども食堂の運営や学習支援など、長年、子どもの貧困問題に向き合い問題を解決してきた認定NPO法人「 わたしと僕の夢」代表の佐藤有里子さんに、子ども食堂の現状や運営の難しさなど「本音」を伺いました。


国内における貧困の現状とは

日本では、7人に1人の子どもが “貧困の状態” にあると言われています。
この数字は、厚生労働省が発表した「平成28年国民生活基礎調査」による日本の相対的貧困率です。

「相対的貧困」とは、国民の年間所得の中央値である50%に満たない所得の水準値を言います。
久留米市が発表している2020年の統計によると、5人に1人以上の子どもが貧困に関する何らかの課題に直面しているとされています。


貧困問題について話をする佐藤代表

団体発足のきっかけ

ひとり親で不安定な経済状況の中、子育てを頑張っているというシングルマザーの問題は、自分の周囲だけの話かと思っていたという佐藤代表。

「私の周りには、その日暮らしのシングルマザーがたくさんいました。小さな子どもを抱えていれば、急な休みや早退などが余儀なくされる。そのため、働く場所が限られたり、見つけられずに困っている人がとても多かったんです」

子育てをしながら、しっかり働ける職場に辿り着くのは容易ではありません。せめて、困っているお母さんと、受け入れてくれる企業を繋げることができないだろうか…。

切実な思いを抱えるお母さんたちを救いたいと、2002年に女性の就職支援に特化した人材サービス・紹介事業「キャリアリード」を設立しました。

▼株式会社キャリア・リード
https://www.career-lead.com/

就労支援だけでは解決しなかった子どもの幸せ

■学習支援

お母さんたちに仕事を紹介する仕組みを作り、いくつかの企業ともつながることがひとまず叶いました。
安定した収入を得られるようになった人も多くなり、一安心と思っていた時のことです。

あるお母さんから、「子どもの勉強を見てあげる時間がない」「塾に通わせる金銭的な余裕がない」という悩みを打ち明けられました。
せっかく仕事を見つけ収入がある程度安定しても、母親に時間の余裕はなく、習いものができるまでの十分な収入があるわけではありません。

「子どもには進学させてあげたい」と願う多くのお母さんたちの気持ちに応えてあげたい。
お母さんたちの仕事の斡旋と同じように、その子どもたちの勉強も私たちで面倒を見てあげられないだろうか。

2007年、自社の社員が講師となり、会社内で学習支援の場を設けました。その他にも無料塾を開設して本格的な学習支援を始めました。

現在、地域の大学生ボランティアの協力も得て、講師も充実。子どもたちにとって、年の近いお兄さん・お姉さんは相談事もしやすく、勉強だけではない安心感も得られていると思います。

■食事の支援

学習支援を始めて気付いたのが、子どもたちの食生活の貧しさです。
1日3食を満足に食べられない子どもたちの多さには、本当に驚きました。

街には遅くまで開いている店があり、世の中にはモノがあふれていると思っていたこの時代に、ご飯をまともに食べられていないという現実。
学校給食以外はコンビニ弁当やインスタントなどで済ませている子がほとんどでした。

問題だったのが、給食が食べられない長期休み中です。育ち盛りの子どもたちに「栄養もあって温かいものを食べさせたい」「家庭の味を知ってほしい」。
そんな思いから、子ども食堂として食事の支援も始めました。

この子ども食堂は、温かい食事の提供だけでなく、誰かと一緒に「いただきます!」と言って食卓を囲むぬくもりに、食事のマナー。後片付けといった家庭的なことの経験も含んだものです。
また、社会に出ても困らないよう、一緒にご飯を作って自炊することも学びのひとつだと考えています。

■居場所の提供

家庭が抱えている問題は、それぞれの家庭の数だけあります。また、表面化するものもあれば、気付くことができないことも。特に、お母さんの心や身体の状態が不安定になることで起こる「ネグレスト問題」は深刻です。
母親が子どものことに気が回らなくなり、養育を放棄してしまう。子どもの体調が悪いのに気づけない場合もありますし、気付いていても放置し、命に係わる事態になることだってある。

そんな最悪の事態を未然に防ぐには子どもたちが安心して居られる場所を確保することでした。
親や学校の先生以外にも、頼れる大人が居る場所として、何かあれば頼れる居場所づくり。「ひとりぼっちじゃないよ」と親子ともども安心できるシェルターのような場所です。
実際、お母さんの仕事が終わるまで子どもを預かることや、子どもからのSOSに寄り添う夜もあります。

また、ご飯が食べられる。勉強を教えてもらうだけでなく、同じような境遇の子が同士での安心感もあるように思います。学校で孤立しがちだった子に友達ができるなど大きな変化をもたらしました。

現在は、進学支援の他、さまざまな体験の機会の提供として、絵を描いたり音楽を奏でることに、スポーツ観戦や博物館に行くなどの幅広い支援を行っています。

学ぶことで未来に希望を

現在、無料塾では小学生から高校生までの支援を行っています。特に中学生の学習支援では、高校進学に夢を持ち、合格をゴール設定することで頑張れる子が増えました。

ただ、高校進学で問題となったのが入学時に必要となる「制服」です。かばんや靴など一式そろえるとなるとかなりの金額で、金銭的に購入できないという家庭は少なくありません。
こういったことをきっかけに「親に負担をかけたくない」と、進学に消極的になる子もいます。

そこで2021年、進学する子どもたちに「新しい制服を準備してあげよう!」と、クラウドファンディングで支援を募ったところ多くの賛同をいただき、2022年には企業からの寄付金で20数名分の制服代を補うことができました。

「制服が買える」という安心感は想像以上の影響力で、例年、年末ぎりぎりまで進学校を定められずにいたというのに、夏休みには進学先を早々に決めて、照準を合わせて勉強に集中できたのです。
その結果、公立高校への合格率がグンと上がりました。合格は自信となり、頑張った結果は達成感となったことでしょう。支援してくださった方々には感謝しきれません。

命綱はみなさんの寄付

子どもたちへの食・居場所・学びの提供は、私たちだけでどうにかなる問題ではありませんでした。
現在、子ども食堂の食事だけでも年間に約5700食を提供しています。それにかかる活動費は、地域、周囲の方々の協力や援助で成り立っています。
通常のフードバンク、フードドライブの食材の提供の他、サポーターとして地元企業から支援金もいただくなど、みなさんの協力の下、どうにか成り立っています。

潤沢にあるわけでない支援金をやり繰りするのは大変なこと。コロナ禍で親が仕事を失ったりと、ここ数年は大変な時期でもありました。
継続して子どもを守るためには、支援金はもちろんですが、割安で食材を譲ってもらえるお店やそういった仕組みなどがあれば良いのになと思うことがあります。
「ください」というのではなく、安価で食材を提供いただければ、子ども食堂の食材も安定し、育ちざかりの子どもたちに美味しいご飯の提供が継続できると思います。

子ども支援のこれから

「食べること」とは、もちろん1日3食をきちんと食べるという基本的な意味もありますが、子どもの未来を考えれば、今日・明日だけでなく、大人になった時に自分の足でしっかりと立って「食べることができること」です。

私たちが目指しているのは、地域と連携したダイバーシティ就労支援。
生きる力を身に着け仕事を得て、自分の人生をしっかりと歩む。生まれた久留米で安心して生活でき、さらに将来に希望と夢を持って生きていける。そんな未来を描けるようにしてあげたいという思いで取り組んでいます。
それには、やはり地元企業や個人の方の支援なしでは活動ができません。

「地域全体で子育てをする」という思いを少しでも伝え、共感して頂ければありがたいです。

▼認定特定非営利活動法人「わたしと僕の夢」
https://www.watashitobokunoyume.org/

子ども食堂とは

経済的に困難な家庭や食事の提供が不安定な家庭の子どもたちに、地域の方々が、無料や少額で食事を提供する取り組みです。
場所によっては、子どもに限らず独り暮らしのお年寄りや、生活困窮者の利用もできる「多世代食堂」などもあります。

運営には食材の調達だけでなく、調理する場所や光熱費、食事を用意するスタッフなども必要です。活動は、市民団体やボランティアで行っているため、資金は企業や個人の寄付等で賄っていますが、不足分は活動団体の資金や団体の個人負担等で補っているところもあります。

また、開設するルールなどはその地域によって異なるため、行政や社会福祉協議会等の窓口での確認が必要です。

活動で困難なことは食材の確保と資金繰り。
行政に頼るだけでなく、「貧困の問題」を自分ごとと捉え、地域社会の関心を高めることが重要です。
それによって企業や飲食店、生産者などとの連携が必要な時にきています。

▼こども食堂と連携した地域における食育の推進(農林水産省)

https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/kodomosyokudo.html

この記事のライター

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