中小小売業のSDGsと大手小売業のESG

公開日:2022.12.14 更新日:2024.09.11
ライター:ショクビズ編集部
中小小売業SDGs、大手小売業ESG

最近、アメリカやヨーロッパ圏の新聞を見ても、SDGs(国連の持続可能な開発目標)の単語はあまり見かけなくなり、代わりにESG(環境・社会・ガバナンス)という単語を目にする機会が圧倒的に多くなった。

ところが日本の新聞には毎日のようにSDGsの活字がならんでおり、記事の内容はどれも社会環境関連の商品やサービスなどビジネスチャンスの話ばかりで、それによって具体的に、どの程度、定量化された改善効果が期待されるのか、世界がよりよい方向に向かうのかについて触れられることは皆無に等しい。

メディアが取り上げるニュースを見るたび、SDGsは聞いたことがあっても、『1.5℃の約束』について認識している人が日本にどれ位いるのだろと思う。

2015年12月、フランスのパリで開催されたCOP21(国連気候変動枠組条約締約国会議)にて「パリ協定」が採択された。その際に指摘されたのが、今後の地球温暖化対策で気温上昇を2℃未満にするには2030年時点の二酸化炭素(CO2)排出量を2010年比で25%削減すること、又は最低でも1.5℃以内に抑えるためには45%削減の必要があるという通称『1.5℃の約束』だ。

1.5℃範囲の上昇に抑えるために、CO2排出量を2050年までに実質ゼロにするという長期目標として、カーボン・ニュートラルが掲げられており、少なくとも株式上場企業にはESGの具体的な取り組み数値の改善が課されている。

ここで注目したいのは、日本の産業構造の大きな特徴として、国内企業全体の99.7%は中小企業から成り、大企業の割合(そのほとんどが株式上場企業)は、わずか0.3%に過ぎないという点だ。

それは食品小売業においても同様で、公益財団法人流通経済研究所のレポートによると、上位10社の市場シェアは18.2%に過ぎず、上位100社迄で40.0%、残る60%は中小の小売店から成り立っており、上位集中度はアメリカやヨーロッパのそれと比較して低い状況にあると言える。

小売業を含む法人であれば、企業の規模に関わらず、永続的に活動することを前提に存在している。だが、地球の気温が上昇しつづけると、これが困難になる。つまり、企業の経済活動が促進され、社会生活が豊かになると、副産物としてCO2も同時に増大するという二律背反な構造について、企業の規模に関わらず、皆が再認識する必要があるということだ。

これを規制するのに即効性があるのが、「プラスチック資源循環法(プラ新法)」のようなレジ袋や容器包装物の発生抑制、水平リサイクルの推進など、環境規制を打ち出した「法律や規範等による制限」だが、政府や国際機関が主導できるほど簡単な話ではない。

例えば、火力発電は多くのCO2を排出してしまうので、これを太陽光発電に代表される再生エネルギーに転換したいと考えてみよう。ところが太陽光発電や風力発電等は、間欠性(お天気まかせで不確か)な性質をもち、(電力構成の一部を占める程度であれば良いが)安定した電源とはなりえないし、系統安定費用を加味すれば割高となるため、経済発展を目論む途上国に、先進国と同じ再生エネルギーの利用を義務化する国際ルールを押し付けるのは乱暴な面がある。

SDGsとは、途上国の経済発展を実現するために留意すべき目標ともいえる。確かに、目標13には「気候変動に具体的な対策を」と設定してあるが、(実は13と比べて言及されることが少な過ぎるのだが)目標7には「すべての人々に手頃で安定した、持続可能な現代的エネルギーへのアクセスを確保する」ともある。

これには、具体的に「再エネ割合を大幅に拡大させることを目指しつつ、高効率かつ環境負荷の低い化石燃料利用技術もクリーンエネルギーとして技術開発と投資が奨励される」としている。

つまり、SDGsは決してCO2の排出原因の一つである化石燃料を排斥するスタンスを取っていない。それどころか、途上国の人々にクリーンな化石燃料へのアクセス(安価な供給)を支援する国際協力を強化することを求めている。また、目標13にしても、途上国は気候変動(温暖化)対策に脆弱な国が多いので、そうした国々で被害が出ないように先進国が留意して対策を講じましょう、ということを訴えている。温暖化進行を抑えるだけではなく、温暖化の被害を軽減する対策(適応策)も重視していると表現されている。ここがESGとは異なる点だ。

日本でも再生エネルギーの採用は、株式上場企業など大企業を中心に進んでいるのだが、その背景には、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)による規約によって、ESGの取り組みについて、株主や投資家に対し、具体的な数値改善(定量的な効果)によって削減実績を証明することが求められているからだ。

もし、定量的な削減効果を証明できなければ、グリーン・ウォッシュ(見せかけの環境配慮)と見なされ、社会的な信用を失墜させてしまうことになる。大企業にとっても苦しい制約なので、これを中小企業に適用するのは困難であろう。

翻って日本では、中小企業を中心にSDGsが拡がりを見せているが、気になる点として、日本だけが過熱した報道となっていることだ。その要因として考えられるのは、SDGsは取り組みプロセス(数字で評価されない定性的なアクション)が重要視され、何もやらならいよりはやったほうがよいという情緒的な扇動をメディアが煽る傾向にあるように思える。

誤解されることを恐れずに述べたいのは、SDGsにも一定の貢献度合があるとして、忘れてはならないのは『1.5℃の約束』だろう。結果として、2022年時点で、2010年よりすでに気温が1.1℃上昇してしまっている現実に目をつむるのは難しい。

大切なのは、社会的責務から大企業がESGに取り組むことも重要だが、中小小売店であっても、SDGsのその先にある『1.5℃の約束』は忘れずに意識しなければならないということだ。

今、とっているアクションが企業アピールや情緒的な取り組みだけに留まることなく、地球温暖化につながらないように、ビジネスを通じて排出削減効果を意識したアクションが求められている点を再認識し、一歩を踏み出すことこそが大切なことではないかと思う。

記事:サカイケイチロウ 中小企業診断士/経営学修士(MBA)

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